工藤壮人が明かした「W杯メンバー発表という重圧」 (5ページ目)
「それが先日、彼から初めて『サッカーが楽しくない』という言葉を聞いたんです。
ここ数試合(川崎戦まで)、表情が曇っていましたから、心配していたんですが。マサはサッカーがすごく大好きで、家のテレビでもずっとヨーロッパのサッカー中継を見ているんです。そこまでサッカーに打ち込んでいる人が楽しくないって……。
『どうしたらいいかな?』と父にメールを送ったら、すぐに『(吉田)達磨さん(柏のダイレクターで、柏ユース時代の監督)に相談しなさい』って。マサは達磨さんに電話をかけ、『あくまでユース時代の恩師として話を聞いてほしい』と言ったみたいです。電話の後は、『おはよう』、『行ってきます』の声の張りが違っていましたから。ちょっとホッとしました」
吉田ダイレクターから、「おまえだけの問題ではない」と労(ねぎら)われた工藤は、救われる思いだったという。彼はこれまでもそうやって心を奮い立たせ、分の悪い戦いをどうにか勝利に導いてきた。苦難を乗り切ることで“心の筋肉”が健全に鍛えられてきたのだろう。それは苦しい状況でこそ、より強く反発する。
代表メンバー選考という大きな負荷の中、工藤はその反発力を見せつけている。(第9節)4月26日の浦和レッズ戦、(第10節)4月29日のガンバ大阪戦、1トップに入って攻撃を機能させるとチームは連勝を収め、上位に肉薄した。
そして(第11節)5月3日、ホームでの鹿島アントラーズ戦。首位との戦いにおいて、工藤はその真価を見せた。前半終了間際だった。味方が必死につなげたパスを、工藤は完全にマークを外して受けている。ペナルティエリア正面の少し外、ゴールに背を向けてワントラップ、反転しながらシュートにいけるポイントにボールを運ぶ。半身の体勢から、右足で左隅にコントロールした。力まずコースを狙う、彼らしいゴールだった。
チームはその1点を守り切って勝利を収め、首位戦線に浮上した。試合後、ゴール裏のサポーターに招かれた彼は、拡声器で声援の音頭をとった。
「アレー、クドウ、アレー、クドウ、エキセントリック、マサトー♪」
生来のゴールゲッターは、自身の応援歌を体中に浴びていた。午後に射す陽光がよく似合った。
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