工藤壮人が明かした「W杯メンバー発表という重圧」 (3ページ目)
「もう少し早くに話をしようと思っていたが、おまえ、持ち前の明るさがなくなっているぞ。思い悩んでいるのは分かっていた。今日はすべて私に話してみろ」
ネルシーニョは人の心を読むのに敏感なところがあった。そのおかげで、チームは正念場で士気を高め、毎年のようにタイトルを手にしてきた。意を決した工藤は、守備の負担が多い中でゴールが遠いジレンマを洗いざらい打ち明けた。その後、ネルシーニョは他のFWも呼び出し、ユーモアを交えてこう語りかけたという。
「これから、おまえたちにこのボールを紹介する。この“女性”をみんなで取り合うのではなく、転がしてみろ。そのためにはコンビネーションが大事だ。3人の誰かがゴールすれば、それは一人のものではなく、3人のゴールだ」
工藤は、「ゴールはやっぱりゴールした人のゴールだよな」と思いながらも、指揮官の心遣いに感謝し、心を整理しようと必死だった。
4月23日、工藤は夫人と連れ立ち、柏駅の東口から歩いてすぐの食事処『とんき』で夕食をとっていた。外食は珍しい。普段は夫人の手作り料理を家で食べるからだ。ちなみに選手はランチをクラブの食堂で食べるルールになっているが、夫人は1ヵ月のメニューをもらった上で、朝と夜、バランスのとれた食事を作っている。妻の献身のおかげか、工藤の体はここ1年で逞しく大きくなった。
工藤と夫人は、2008年1月、高校2年生の終わりに出会ったという。「柏ユース時代のチームメイトが夫人と幼なじみ」というのが縁だった。メールのやりとりから始まり、意気投合。公園でデートを重ね、ときには明け方まで電話で話し、二人は距離を縮めた。2012年12月にプロポーズして翌年9月に入籍。2014年1月には、柏市にあるチャペルで結婚式を挙げている。
彼女は、最も濃密に工藤を見守ってきた人物と言えるだろう。
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