「江川卓攻略法」を編み出した谷沢健一 凡打するたび気づいたことをノートに書き記した (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 3球目の外角のストレートをうまく左中間に弾き返し、同点タイムリー二塁打。後続の大島康徳もタイムリーを放ち、3対2で勝った。たまたま谷沢の同点タイムリーシーンを、テレビ中継で見ていたミズノ社長の水野健次郎が「おい、ウチのアドバイザーの谷沢が玉澤のバットを使っているじゃねぇか!」と激怒し、後日、谷沢は社長のところへ謝りに行ったという。

 大事なペナントの優勝がかかっている時に、バットがどうのこうのと悠長なことは言っていられない。谷沢は江川と対戦する時だけ、玉澤でつくったバットを使用することにしたのだ。

「なんとか江川を攻略したくて......凡打するたび、気づいたことを手帳に書き記していた。江川に関しては、失敗しかない。でも、多くの失敗のなかから何かチャンスがあると思って、何度も手帳を読み返してみた。そして、打ち方、狙い球の定め方、捉え方を見つけた。

 まず、江川の顔を凝視する。ただひたすら睨みつけて、ボールがどう出てくるかとか、そんなことは無視して、とにかく狙いを定めて江川の顔を睨みつける。次に、テイクバックをしない。江川の150キロ超のボールは、テイクバックを取っただけで差し込まれてしまうから、テイクバックすることなく構えたところからすぐ出す。最後にポイントを前に置いて、思い切り引っ張る。バッティングコーチは、速いボールに対して逆方向に打てと指示するけど、無視してただひたすら引っ張る。ライトのスタンド目がけて引っ張る。そしたらタイミングが合うんですよ。カーブが来ても、真っすぐのような感じで打っちゃう」

 首位打者を2回獲得した安打製造機、谷沢健一が行き着いた"江川攻略法"だ。谷沢は江川から打つためにプライドを捨てて、愛用しているバットの型まで変えて挑んだ。

 その執念が9月14日の同点タイムリー二塁打、そして9月28日の試合でのヒットにつながった。この9月28日の試合、中日は4点差の9回に同点に追いつき、延長10回サヨナラ勝利を飾り、2位ながらマジック12が点灯。ファンの間では今も語り継がれる"伝説の一戦"である。

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