「江川卓攻略法」を編み出した谷沢健一 凡打するたび気づいたことをノートに書き記した (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 この年、江川の勝ち星に比例するように、ペナントレースは巨人が首位をがっちりキープしていた。なんとか2位につけていた中日は、8月24日からの首位決戦で巨人に3タテ(3連敗)を食らい4ゲーム差をつけられ、巨人の2年連続優勝は揺るぎないものと思えた。

「9月に横浜スタジアムでの大洋戦(現・DeNA)が雨で3日間中止となった。次が後楽園での巨人戦。そこで江川対策の練習を3日間やったの。まずバッティングピッチャーを3メートル手前から投げさせた。監督の近藤(貞雄)さんとコーチの黒江(透修)さんの発案で、3メートル手前から力いっぱい投げれば、江川の150キロを超えるストレートを再現できるということでやったけど、まったく打てない。

 練習3日目になって、どうも自分のバットが合わないから後輩の石井昭男にバットを借りたんですよ。僕のバットだと、ヘッドが重くて振り遅れる。でも昭男のバットは、グリップが太いタイカップ式でヘッドは軽い。それで打つと、3メートル前から投げるボールでもタイミングが合うんですよ」

 谷沢はミズノの専属アドバイザーとなっていたにもかかわらず、早稲田大学時代に慣れ親しんでいた早稲田鶴巻町にある玉澤スポーツのバット工場に行った。そこで石井昭男のバットを差し出し、「これと同じ型のバットを3本つくってください」と、腕のいい職人に頼み込み、色を塗らない白焼きのバットを3本つくってもらった。

【執念で見つけた江川攻略法】

 翌週の後楽園での巨人戦。先発は天敵・江川。この江川を攻略しない限り、中日の優勝の芽はない。この日、5番に下げられた谷沢は6回表、1対2と1点リードされた二死一塁の場面で3打席目を迎えた。

 それまで2三振の谷沢は、よりコンパクトに振り抜くことを意識し、玉澤スポーツで造ったバットのグリップを固く握りしめて打席に入った。

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