「江川神話」崩壊の真実を中尾孝義が振り返る「サイン盗みは一切ない。だからこそ価値がある」 (2ページ目)
江川はナゴヤ球場と相性がよく、81年から82年9月28日までに4完封を記録していた。この試合でも9回まで6対2と巨人が4点のリード。江川の調子からして、ファンならずとも巨人の勝利は間違いないと思われた。中尾が振り返る。
「"江川キラー"って言われていた代打の豊田誠佑がレフト前ヒットで出塁。つづくケン・モッカ、谷沢健一さんが打って満塁。大島康徳さんの犠牲フライで1点。さらに宇野勝もレフト線に打って1点追加し、無死二、三塁の場面でオレに回ってきた。1ボール2ストライクだったと思うんだけど、アウトコースのストレートをライト線にライナーではじき返して同点にした。
そして延長10回裏に代打・木俣達彦さんのサードゴロを原辰徳がエラーして、江川は交代。代わった角盈男が、田尾安志さんの送りバントと敬遠と四球で1アウト満塁。そして大島さんがセンター前に運んでサヨナラ勝ち。今でもよく覚えています」
【サインがバレてんじゃないか】
この9回裏の中日の攻撃は、40年以上だった今でも語られるほど有名なシーンだ。何しろ、あの江川が最終回に4点差を追いつかれたのだ。江川は最終回になると、これまで温存していた体力をフルに使って三振を狙うのが"江川流"のスタイル。
この試合、首位の巨人にとっては猛追してきた2位の中日をなんとしてでも引き離したく、この試合までリーグトップの18勝を挙げている江川を立てるなど、万全を期した。
それだけに巨人にとっては痛恨の敗戦となった。江川もこの試合のことはよく覚えていた。
「9回まで6対2ってことは、僕のなかでは勝ち。8回まで投げていれば『もう抑えられる』ってわかるんで、この試合は勝ったなという気持ちだった。それが9回、突然打たれ始めたんだよね。初めての不思議な出来事だった。それでキャッチャーの山倉(和博)がマウンドに来て『おかしくないか。急に芯に当たり出したな』と言うの。カーブを投げても全部芯でとらえられたからね。それで『サインがバレてんじゃないか』って話になって、サインを変えたんです。それくらい中日打線のバッティングが急に変わった」
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