武内夏暉のボールはなぜ打ちづらい? トレーナーが解説する西武ドラ1ルーキーの投球のメカニクス (4ページ目)
北川トレーナーが「まだ伸びしろがある」と言うのは、大学3年夏から武内の成長を目の当たりにしてきたからでもある。
「球を速くしたいという武内くんの希望があり、腹斜筋という脇腹の筋肉を使うことと、背中のほうから腕を長く加速できるようにしていきました。脇腹を使って体幹の回旋を腕に伝えていくのはできるようになっています」
簡潔に言えば身体の連動性が高まり、パワーアップした格好だ。北川トレーナーが続ける。
「もともとツーシームを左バッターの内側にしっかり投げられて、ストレートは単純に強くなりました。ステップも右足がしっかり受けられるようになっているので、よりバッターに近いところで体を回して、リリースポイントが前になっている。だからリリースのタイミングとしてちょっと変則的な感じというか、体(左腕)がいきなりバッって出てくる感じになると思うので、バッターも差し込まれる。それがクイックでもあるのかなと思っています」
武内の投球フォームは打者にとって「タイミングが取りにくい」と言われるが、こうしたメカニクスがあるのだ。
さらに、北川トレーナーが武内の内面をこう表す。
「いろいろ話したときに、落ち着いているなって感じです。瞬間的に反応するというより、噛みしめるような反応なので。深いところまで理解しようというか、味わおう、体感しようっていう感じですね。自分が接していても、上から『こうやるんだよ』と言おうと思わない。意見を尊重したくなるような雰囲気があります。あれはすごいですね」
今季の西武は極度の貧打に悩まされるなか、先発投手は長いイニングを少しでも少ない失点に抑えることを求められている。なかなかタフな状況だが、エース格の投球を続ける今井達也と同じように、支配的な投球を見せているのが武内だ。
周囲から完成度の高さを評価される一方、炭谷も北川トレーナーも「伸びしろはまだまだある」と口を揃える。底知れないルーキーは、まずはどれくらいの数字をプロ1年目に残して終えるのか。これから対戦相手の研究は進んでくるはずだが、新人王はもちろん、ほかのタイトルや賞も狙えそうな気配すら漂わせている。
著者プロフィール
中島大輔 (なかじま・だいすけ)
2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。
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