関根潤三が川崎憲次郎に施した「英才教育」 試合を捨てる覚悟でプロ初先発のマウンドに送った (3ページ目)

  • 長谷川晶一●文 text by Hasegawa Shoichi

 そして、ついに5月9日──。本拠地・神宮球場での阪神タイガース3回戦、5回表一死から3番手として救援登板のチャンスが訪れ、2回2/3を無失点で切り抜けた。さらに、5月23日、東京ドームで行なわれたジャイアンツ戦では待望のプロ初先発の機会が訪れた。

「先発は当日、伝えられました。ただ、その前日に『明日は若手でいく』と言われていたので、内心では『オレだろうな』って思っていましたけどね。ものすごくうれしかったです」

 結果的に5回を投げて7失点を喫した。ほろ苦いデビューとなったが、それでも「ようやくプロのマウンドに立てた」という充実感の方がはるかに勝っていた。

 監督退任後の90年に出版された『若いヤツの育て方』(日本実業出版社)において、川崎のプロ初先発について、関根は次のように述べている。

 川崎がプロ初先発のマウンドにのぼるとき、私はこういって彼を送り出した。
「川崎、このゲームお前にやろう! 捨てるから思い切ってやれや」

 まだまだシーズン序盤であるにもかかわらず、指揮官は「捨てる」覚悟で、期待のルーキーに託したのである。

【関根が大切にした「川崎英才教育」】

 前掲書で関根は、入団直後の川崎について次のように述べている。

 入団してきた川崎のピッチングをはじめてみたとき、
「ファームだったらすぐに勝つな」
 と、直感した。成長レベルでいえば、体力的にも技術的にもすでに三・五(※)くらいの水準にきていた。こんな選手はめったにいない。しかも高卒ルーキーである。
「こいつは、えらいのが入ってきた」
 そう思った。
(※)五段階中の三・五という意

 関根はすでに、「こんな選手はめったにいない」と、川崎のポテンシャルを見抜き、その上で「川崎育成方法」を早くから策定していた。さらに引用を続ける。

 私はどうやって彼を育てようかといろいろ考えた。高卒ルーキーの場合、一般的には、まず一、二年は二軍で体をつくり、基本を学ばせるのが常識である。
 しかし、すでにファームのレベルをクリアしている以上、二軍でやらせたところでたいした意味はない。二軍の試合で投げれば、勝つに決まっているからだ。

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