「高校生がこんな速い球、打てるわけないだろ!」作新学院・江川卓のストレートに相手チームは戦意喪失 ノーヒット・ノーランを喫した (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 7回に入り、小雨だったのが激しい雨に変わり試合が一時中断したが、再開後の江川は前半以上の力のこもった投球で三振の山を築く。そして9回も2者連続三振。最後のバッターも力のないショートフライでゲームセット。

 3対0、公式戦二度目の完全試合達成。内野ゴロ6、内野フライ1、内野ファウルフライ2、外野フライ1、三振17の105球。昨年に続き二度目の快挙。だがこの完全試合の意味合いは一度目とは違う。江川は心の中で完全試合を達成した喜びより、なんだか晴れ晴れしいものを感じるのであった。

【3試合連続ノーヒット・ノーラン】

 7月27日ブロック準決勝対栃木工業。現在、栃木市でスポーツ店を経営している当時栃木工業の捕手だった石川忠央は、この試合のことを今でも悔やんでいる。

「2回に絶好のチャンスがあったんです。四球と失策と送りバントで一死ランナー二、三塁になったんです。この時、監督が悔やんだのは、次の打者の初球にスクイズしようと思ったのが、この日は球が荒れていたから様子見しようとなったんです。それでツーストライクからスクイズサインが出て、うまく一塁側に転がって江川が捕りにきたんだけど、キャッチャーが『捕るな!』って言ってそのままファウルゾーンに切れていったんです。当時の県営球場は傾斜がきつくて、塁線上のバントはすぐ切れちゃうんですよ。キャッチャーが『捕るな』って言ってなかったら、三塁ランナーはすでにホームインしていたし、二塁ランナーもホーム寸前でしたから!」

 昔のキャッチャー像そのままの風体の石川は熱がこもり、次第に高校球児の顔に変わっていく。

「初回の第1打席、初球ストレートが来たんです。二死とられているんで、一か八か思いきっていこうと、ちょっと左足を浮かし気味でタイミングバッチシで振ったんです。行ったぁ〜と思ったらバックネット裏に真後ろのファウル。そしたら、ボールとバットが擦れてプ〜ンと焦げ臭い匂いがするんです。野球をやってあとに先にもファウルで焦げ臭い匂いがしたのはあれが初めてです」

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