栗山英樹監督からの助言に「そんなことできるわけないでしょ」WBC準々決勝イタリア戦 伊藤大海が大谷翔平の招いたピンチで見事な火消し (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 そして2−2の平行カウントになってからの5球目、伊藤はキャッチャーの甲斐拓也が出したサインに首を振った。

「スライダーのサインが出たんですけど、その前のスライダーを振らせてファウルを打たせていたので、次は真っすぐで押したほうがいいと思いました。もしスライダーが見逃しのストライクだったら5球目もスライダーでよかったのかもしれませんが、振らせたことに意味があったので、(サインに首を振って)真っすぐを投げました。外野を越される感じはしなかったので、真っすぐで行けると思ったんです。

 ただ、最後の1球は僕のクセが出て、真っすぐがちょっといい感じでスライドしてくれました。それも力づくだったわけじゃなく、クセが出るのを嫌がらず、カットしてもいいや、くらいの気持ちで投げたことが布石になっていたんだと思います。真っすぐがシュート回転してしまうのがよくないと思っていたので、カット気味の強いボールをベースの上にのせようと、それだけを考えた結果でした」

 ピンチを切り抜けてベンチに戻った伊藤の頭を、大谷がポンと叩いた。伊藤がお尻をポン、大谷が頭をポン──慣れない役割にも自分なりの意味を持たせて、勢いだけではない意図があった伊藤のピッチングには、ダルビッシュの教えがしっかりと生かされていたのである。

著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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