大谷翔平から「オレのピッチングは参考にしないほうがいい」と助言 高橋宏斗は「独特の感性を持っているんだろうなと感じた」
第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、2009年以来14年ぶり3度目の優勝を果たした。世界一の軌跡を選手、首脳陣たちの証言とともに振り返ってみたい。
WBC決勝のアメリカ戦に3番手で登板し1回無失点の好投を見せた高橋宏斗 photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【シャンパンファイトに参加できず】
マイアミでのWBC決勝でアメリカに勝って、世界一になった日本代表。3番手として5回の1イニングをゼロに抑え、勝利に貢献した高橋宏斗はシャンパンファイトに参加すべく、ゴーグルまでつけてやる気満々だった。しかし20歳だった高橋は、米国の『飲酒は21歳以上』という法律のせいで参加できず、「水を飲んでました」と笑っていた。
「アメリカでの2試合、決勝のことは緊張しすぎていてうろ覚えなんですが、準決勝は投げていなかったのでいろんなことを覚えています。最後、逆転サヨナラ勝ちの場面は、レフト側にあったブルペンにいて、村上(宗隆)さんの打球が近づいてくるその軌道をしっかり追っていましたから、鮮明に覚えています。ブルペンから見ていたら左方向に打球が飛んできて、打った瞬間から全員がフェンスをよじ登る感じで見ていました。みんな、興奮してフェンスから乗り出す感じだったので、おいおい、(グラウンドへ)落ちるんじゃないかと心配になりましたよ(笑)」
うろ覚えと言いながらも、高橋が決勝で得たピッチャーとしての感覚は、シャンパンを浴びるよりも遙かに身体の奥底にまで染み込んでいた。とりわけアメリカの主軸、マイク・トラウトとポール・ゴールドシュミットから続けざまに奪った三振は圧巻だった。
「WBCでは第1ラウンドから3試合に登板しましたが、すべて1イニングだということはわかっていました。先発で長いイニングを投げるとなれば、自分がどういうピッチャーなのかを相手に印象づけておくことが大事になってくると思うんですけど、WBCでは1イニングの勝負だったので、バッターも僕がどんなピッチャーなのかをつかむ前に勝負が決します。となれば、もっとも空振り率が高い、抑える率が高いボールを意識したほうがいいと考えて投げました。
僕の場合はそれがスプリットだったので、トラウト選手に対しては最後、スプリットを選択しました(空振り三振)。ゴールドシュミット選手からは真っすぐで見逃しで三振をとりましたけど、おそらくトラウト選手の空振り三振をネクスト(バッターズサークル)で見ていて、あのピッチャーはスプリットと真っすぐがあるんだという、どちらも頭のなかに入っていたと思います。僕もそういう相手の考えが理解できていたうえでのピッチングだったので、追い込まれたらスプリットもケアしてるはずだというところを意識して投げた真っすぐでした。その分、手が出なかったんだと思います」
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プロフィール
石田雄太 (いしだゆうた)
1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。