侍ジャパン最初のターニングポイントはチェコ戦 先制を許す悪送球の中野拓夢を救った源田壮亮のひと言
第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、2009年以来14年ぶり3度目の優勝を果たした。世界一の軌跡を選手、首脳陣たちの証言とともに振り返ってみたい。
WBC1次ラウンドのチェコ戦でスタメン出場を果たした中野拓夢 photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【初スタメンでタイムリーエラー】
2023年3月11日。
WBCを戦う日本代表は1次ラウンドの3試合目を迎えていた。中国、韓国に勝って、相手はチェコ。しかし、順調に勝ちを重ねていた日本に大きな誤算が生じていた。
前夜の韓国戦の3回裏、先頭バッターとしてフォアボールを選び、二盗を決めた源田壮亮が右手の小指を痛めてしまったのである。牽制球で二塁に戻った時、相手の遊撃手と交錯して小指を骨折した源田は、チェコ戦に出られない──となれば、ショートを守るのは中野拓夢だ。中野に先発が伝えられたのは,チェコ戦の当日だった。中野が振り返る。
「自分のなかでしっかりと試合前に身体を動かして、気持ちをつくって......という状態はできていました。それはシーズン中もやっていることなのであまり変えないよう意識して、シーズン中と同じリズムで臨もうと思っていました」
しかし負けることが許されない大舞台、シーズンと同じリズムでプレーするのは容易でない。チェコ戦の初回、先発の佐々木朗希がツーアウトから3番のマレク・クラップにツーベースを打たれた直後。4番のマルティン・セルヴェンカが162キロのストレートをショートの前へ打ち返した。
その打球を中野が捕って、足を運びながら一塁へ──しかしタイミングが合わず、ワンバウンドの悪送球となってしまい、クラップがホームイン。チェコに先制の1点が入った。中野がこう振り返る。
「打球が速かった分、捕ってから少し余裕があったんです。だから自分でも余裕を持ちながら、捕ったあと、大事にいこうと思ってバッターランナーを見ながら、合わせて投げてしまいました。余裕を持ちすぎたせいで、リズムがおかしくなったんでしょうね。下半身を使えずに上半身だけで送球した、いわゆる手投げになってしまいました。普通に合わせることなく自分のリズムで投げておけば、ああいうミスはなかったのかなと思います」
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著者プロフィール
石田雄太 (いしだゆうた)
1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。