元巨人プロスカウトが明かす木佐貫洋のトレードの舞台裏 交換要員を伝えられた原監督は「高木? 誰?」 (3ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi

【今も脳裏に浮かぶトレードで獲得した打者】

 香坂氏はおよそ10年のプロスカウト人生で、数十人のトレード、FAに携わってきた。もちろん、すべてが成功だったわけではない。香坂氏のなかで、今も脳裏に浮かぶ打者がいる。

「日本ハムから獲得した高橋信二という右のスラッガーがいました。かつては4番も担っていた打者です」

 2010年、当時の巨人は右の長距離砲を探していた。

「高橋の存在は当然把握していました。しかし、4番を任されたこともある打者です。簡単に獲れるとは考えていませんでした」

 ところがトレードが成立した前年、ハプニングが起きた。試合中に頭部に死球を受け、ケガを負ったのだ。

「翌年は出場機会が減りましてね。こういうケース、プロスカウトはトレードの可能性を考えます」

 香坂氏は本来トレード交渉をする立場ではないが、この時は直接、日本ハムのGMと交渉するよう幹部から命じられた。

「交換要員の話をすると、日本ハム側が求めている選手は若手の有望株ばかりで、とてもこちらが呑める条件ではなかったんです」

 結局、交換トレードの話は一度立ち消えたが、再度交渉の結果、翌年の5月に金銭トレードという形で獲得に至った。だが、移籍してからの高橋はなかなか結果を残せなかった。

「高橋は頭部死球の影響で打撃に影響はないのかという点の最終判断が行なわれ、統括ディレクターがクロスチェックをし、GOサインが出て金銭トレードは成立しましたが、彼が結果を出せなかったのは残念なことでした」

 獲得して結果を出せなかった選手には、無念さが残る。

「トレードでチームを移るということは、その人の人生まで変えてしまうものです。『獲得しましたが、ダメでした』という結果は本当に忍びないですね」

 そのため、慎重になりすぎることもあったという。

「最終的にトレードを決断するのは、チームのトップです。プロスカウトはあくまでも調査し、報告することが仕事です。そして問われれば意見を述べます。だからこそ自信を持って報告できるような調査が大切になってくるんです」

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