2度目のトライアウトで会心の一発 戦力外から1年、元ヤクルト・中山翔太が示した成長の証 (3ページ目)

  • 杉田純●文 text by Sugita Jun

 さらに、もうひとつ強調したいのは中山が明るいオーラをまとっているということだ。

 トライアウトは、通過率5%とも言われる狭き門だ。多くの選手は、それを承知のうえで僅かな可能性を信じ、自分の人生をかけた勝負に臨んでいる。

 そんな選手たちは、取材の場でさまざまな顔を見せる。真剣な面持ちでプレーを振り返る者、満足いく結果が出せず表情が明るくない者、活躍できなかったことやケガを悔やむ者......グラウンドだけでなく、取材エリアにもトライアウト独特の空気がある。

 だが中山は取材時、とにかく充実した、明るい表情を浮かべ続けていた。結果がよかったというのもあるだろうが、自分の人生がかかっているという悲壮感やヒリヒリ感は一切ない。「ホームランを打ちたい」と運命の1日に臨み、実際にホームランを打つ。ライバルであるはずのほかの野手とも笑顔で手を合わせる姿は、むしろ楽しんでいるようにも映る。

 中山に、この1年は苦しくなかったのかと聞くと、こんな答えが返ってきた。

「まあ前向きにやっていたので。苦しくなりそうな時には、『いま前向きに考えなきゃいけないな』って、そういうふうに思っていました」

 努めて明るくしている部分もあったというが、それが結果として目の前にいる好漢のオーラを形づくっていることは間違いない。

 中山が持つ、純粋さと明るさ。それがあるから、中山の周りには人が集まるのではないだろうか。現に、何人もの記者が中山を囲み、そのコメントに耳を傾けている。そんな中山のオーラがあったからこそ、坂口や青木、内川らも目をかけていたのではないかと思えてならない。

 純粋に振る舞い、ホームランを追い求め、打てればまた素直に喜ぶ。中山の姿はプロ野球選手というより、大きな野球少年のようだ。取材の最後に、今後の進路について尋ねてみた。

「一番は12球団(NPB)ですけど、声かけていただけるなら、すべてお話を聞かせてもらって、それで決めたいと思います」

 とにかく野球がやりたいということかと聞くと、「はい!」と即答した。中山の言葉は、やはりシンプルで純粋だった。

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