斎藤佑樹はベテランの思いに涙腺崩壊 鶴岡慎也が手渡してくれた1枚のDVDと金子誠のダイビングキャッチ (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 あれは(4月20日の)神戸でのバファローズとの試合です。あの時に意識していたのは、ワンバウンドになってもいいくらいの意識で低く低く、縦のスライダーを投げること。右バッターにはインコースに食い込むツーシームを、左バッターにはインコースへカットボールを見せて、低めのボールゾーンに決めた縦スラとチェンジアップを振らせる。

 もちろん、ここというところではフォーシームをストライクゾーンに投げ込む。あの試合、やたらと得点圏にランナーを進めてしまいましたが(7度)、それでも初球はストライクゾーンで勝負できていたと思います(7度のうち5度までが初球にストライク、1度は2球目にストライク、ツーボールは1度)。そのおかげで、追い込んでからのボールゾーンの変化球を振らせることができました。

 何とかゼロを積み重ねて、9回裏。ツーアウト一塁でバッターはバファローズの9番、早大の先輩でもある由田(慎太郎)さんでした。その由田さんに初球、アウトローのツーシームを三遊間の深いところへ弾き返されます。

 その打球をショートの(金子)誠さんが横っ飛びでつかんで、体勢を立て直せないまま、セカンドへボールを投げました。結果はセーフで、試合は終わらなかったのですが、あの誠さんのダイビングを見て、僕は勝手に応援してもらっている気持ちになったんです。アウトにできなくて、悔しさのあまりしゃがみ込んだ誠さんの姿に感動してしまって。まだ試合が終わったわけでもないのに涙腺崩壊して(笑)......あれはうれしいというよりホッとしたような、不思議な感覚でしたね。

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 3年連続で2ケタ勝利を挙げていた武田勝を差し置いて、6勝の斎藤が開幕投手を務めることをチームメイトはどう思っていたのか。夏の甲子園から背負わされてきた十字架はチームメイトにどう見えているのか。そんな斎藤が、ベテランのなりふり構わぬ必死のプレーに、ようやく認めてもらえたかもしれないと安堵した。そんな感情を彼は「不思議な感覚」と表現したのだろう。しかし5月、斎藤は突如、マウンドで悪夢のような出来事に晒されることになる。

(次回へ続く)

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