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大谷翔平「野球盤のバット」が異次元の弾道を生む秘訣 「リアル大谷」の衝撃に日本代表スラッガーも呆然 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

「僕は差し込まれたホームランが好きです。レフトに上がってもいいし、ライトに上がってもいい。なるべく身体に近いところまでボールを呼び込んで、そこで捉える。差し込まれたように見えたのに、『あれっ、入った』というホームランが好きですね。前で捌いてホームランにできる、そのポイントからさらにもう一つ、二つ、身体の近くまでボールを呼び込んで、そこで打ったホームランが好きなんです」

 日本代表のチームメイトでさえ、大谷のことを「人間じゃない」と表現していたが、いやいや、大谷は紛れもなく人間だ。二刀流という前人未踏の未開の地に足を踏み入れることを覚悟してから10年、彼は時間を惜しんでイメージを形にするための工夫と練習を積み重ねてきた。彼は「一日40時間あったらいいのに」と言ったこともある。だからこそ人間離れしたことができるようになったのであって、人間じゃないから、と決めつけたら大谷の本質を見失ってしまうのではないか。

 栗山英樹監督は大谷が不参加となった宮崎で、こう言っていた。

「翔平に『早く来いって言っておいてよ。翔平が来たらこのチーム、間違いなく化学反応が起こるからさ」

 たしかに、化学反応は起こった。

 ただ栗山監督が想像するよりも遙かに、リアルな"大谷翔平"は劇薬だった。良きにつけ悪しきにつけ、化学反応が起こりすぎてしまったのである。

 トップレベルのプロ野球選手にとっても、メジャーでの大谷のホームランは画面に収まる世界に過ぎなかった。同じ空気のなかで初めて共有した大谷の弾道は、三冠王を獲って己のバッティングに少なからず自信を携えていた村上宗隆にショックを与え、同じメジャーの舞台で戦う吉田正尚を焦らせ、パ・リーグのホームラン王の山川穂高に参ったと言わせた。

 それでも、さすがは日の丸を背負うスラッガーたちだ。劇薬をあっという間に良薬に変えて、彼らはそれぞれ、本番を前にした強化試合で自分なりの答えを披露している。

 日本が14年ぶりの世界一奪還を目指す第5回のWBCが幕を開けた。バッターの大谷翔平が放つホームランは、狭い東京ドームの天井にことごとく当たってしまうのではないだろうか。そして、まだベールに隠されたままのもうひとりの大谷翔平......彼はピッチャーとして初戦の中国戦に先発する。世界一の選手を目指す二刀流が、まずはWBCで世界一を目指す。

著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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