大谷翔平「野球盤のバット」が異次元の弾道を生む秘訣 「リアル大谷」の衝撃に日本代表スラッガーも呆然
集英社の取材席は京セラドームのネット裏、前から2列目に割り振られていた。
ありがたいことにバッターボックスは目と鼻の先だ。さすがにスイングの音までは聞こえないが、選手の叫び声や打球音はよく聞こえる。そして大谷翔平がこの試合、2本目のホームランを打った時、たしかにこう聞こえた。
グシャッ。
いや、このカタカナ表記があの音をどこまで正確に表現できているのかわからない。しかし35年、仕事で野球を見てきて、こういう時は"グシャッ"というカタカナがピンとくる。
3月6日の阪神との強化試合で2本のホームランを放った大谷翔平この記事に関連する写真を見る
【大谷翔平が放った衝撃の2本塁打】
3月6日、京セラドーム大阪。
第3打席、大谷翔平が阪神のルーキー左腕、富田蓮が投じたインハイのストレートを捉えた瞬間、この音を聞いた誰もが「詰まった」と思ったはずだ。すかさずセンターを守る近本光司の動きに目をやった。近本はゆっくりと右方向へ、三歩、四歩、動いた。下がったのではない。真横か、あるいは少し前へ出たようにも見えた。インハイのストレート、大谷の打ち方、グシャッという打球音、そして高く舞い上がった打球──そのどれもが、この打球はセンターフライになる、とイメージさせたはずだ。
しかし、大谷の打った打球は高く舞い上がったまま、落ちてこない。そしてセンターのフェンスを超えて、バックスクリーンの右へと消えていった。しかもこの時、大谷のバットは折れていた。
グシャッという音は聞き間違いではなかったのだ。その前の打席で放った1本目のホームランは、才木浩人が投じた初見のフォークボールを片手で拾って、ヒザをついたまま振りきり、センターの観客席まで運んでみせた。
この時も、打った瞬間はまさかホームランになるとは思わなかったはずだ。あんなに体勢を崩されたら凡フライに終わるのがこれまでの野球のなかでの肌感覚だからだ。
片手で拾った打球が、あるいはどん詰まりでポップフライかと見紛うほど高く舞い上がった打球が、スタンドまで届いてしまうのは一体なぜなのか。それは大谷の打球の弧が、あまりに巨大だからだ。次元の違う弾道は、そもそも大谷が持っている"絶対飛距離"がほかの選手と違っているからこそ描かれる。大谷は自身の飛距離へのこだわりについて、こう話していたことがある。
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著者プロフィール
石田雄太 (いしだゆうた)
1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。