斎藤佑樹が駒大苫小牧との決勝再試合で初球に投げた最強のボール。「あの夏の甲子園、僕は覚醒していた」 (4ページ目)
もし中澤くんの当たりがホームランにならず、フェンス直撃のツーベースヒットだったら、3点差でノーアウト2、3塁。それが、ホームランだったから1点差のノーアウト、ランナーなし。こっちのほうがいいよって、マウンドに集まったみんなともそんな話をしていました。
仕切り直しだって話して、いつもどおり、後藤(貴司)が「ヘッズアップ」と声を出すと、みんなで空を見て目をつぶる。深呼吸して後藤がまた「俺らは」と切り出すと、僕たちが「みんなでひとつ」と続ける......ホームランのあと、ノーアウト、ランナーなしで迎えたのが4番の本間(篤史)くんでした。
あの打席は初球がアウトローにまっすぐ(146キロ、見逃してストライク)、2球目もまっすぐ(外角、ベルトの高さの140キロを一塁線にファウル)、最後がアウトローにワンバウンドのスライダー(130キロ、空振り)を投げて、三振を奪いました。
本間くんは「ホームランを打ちたくて一発狙いだった、もっとつなぐ意識を持つべきだったと悔やんでいる」と僕に話してくれたことがありましたが、でも、あの時の本間くんからはホームランを打つんだという雰囲気はあまり感じませんでした。右方向にファウルも打っていたし、なんとか塁に出たいという意識だったんじゃないかと僕は思っています。
9回が始まる時、駒大苫小牧の攻撃が2番からだったので、僕のなかでは2番、3番を抑えて、ツーアウトで4番の本間くんを迎えて、彼で試合を終わらせる流れをイメージしていました。最後の夏は(前年秋の)明治神宮大会でホームランを打たれて負けた本間くんと対戦して、そこで三振に打ちとって早実が優勝を決める、というのが僕の描いたストーリーだったんです。
ところが2番、3番に打たれて、目論みが外れちゃった(笑)。4番の本間くん、5番の岡川(直樹)くんを(セカンドフライに)打ちとって、ツーアウト。ここで迎えた6番バッターが、マー君です。きっと世の中的にはそれを望んでいたのかなと。でも、僕のなかでは駒苫打線を抑えるカギは4番の本間くんで、僕にとっての宿敵は彼だと、ずっと思っていました。
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日本一まであとひとり。王者・駒大苫小牧を追い詰めた斎藤は、ここで打席に6番の田中将大を迎えた。2試合にわたって繰り広げられたエース対決に相応しい、役者の揃い踏み。日本中が固唾を呑んでこの対決を見守る。斎藤が投げた初球のスライダーに対し、田中は思いきってバットを振っていった──。
(次回へ続く)
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