元阪神・中込伸にとって92年とは?「あの1年があったから台湾でプレーできたし、今も商売を続けられている」 (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

「あれは長かったですね。僕はあまり調子がよくなかったので、7回の途中で交代となりました。そのあと、延長15回まで続いたんだから、8イニングもベンチで見ていたんですよ。誰が先発やねん!って(笑)。八木さんが打った時にはベンチの裏でタバコ吸ってました、暇すぎて。先発はそうやって自分のペースを守ることも仕事ですから」

 ただ、中込自身が「調子がよくなかった」と言うとおり、その試合は9四球を出して6安打3失点。ちょうど1カ月前の8月13日のヤクルト戦で8勝目を挙げたあと、左背筋を痛めてローテーションを1回飛ばすなど不振が続いていた。これが「夏バテ」だった。遠征先で飲み食いし過ぎて太ったことが、この時期に悪影響を及ぼしていた。

裏目に出た先発投手のリリーフ起用

 それでも、チームは引き分けた翌日のヤクルト戦から5連勝。中込はその5試合目の9月19日、甲子園での大洋戦に中7日で先発すると、6安打1失点、無四球完投で勝利。これで9勝目となり、2ケタの勝ち星も見えてきた。チームは2位に3ゲーム差をつけ、残り15試合を勝率5割でも優勝が見えるほど優位に立った。

 試合後、お立ち台に上がったのは中込だった。アナウンサーが「10月10日はどういう状態で帰って来られるでしょう」と尋ねた。すなわち翌日から始まる長期ロードを経て、次にチームが甲子園に戻る時には優勝を決めている、と言わせたかったのだ。だが、中込は「うーん。頑張ります」とだけ言って笑った。苦笑のようにも見えた。

「周りは『優勝だ』と騒いでましたけど、僕はその試合、やっぱり調子が今ひとつで、なんとか抑えた感じだったんです。そしたら、中村(勝広)さん、監督が言っちゃったんですよね。『今度、甲子園に戻る時には大きなお土産を』って。その時は余裕で優勝と見られてましたからね。でも、若い野手たちにはプレッシャーで、硬くなってしまった。

 チーム内でも『遠征に行っている間に優勝できるんじゃないか』という雰囲気はありました。それがロードに出た途端、4連敗で2位に落ちて。『おいおい、どうすんの、どうすんの......』って」

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