ヤクルト・山田哲人が苦しんだ最大の原因は村上宗隆。「ライバル心がスイングを狂わせた」と名コーチ伊勢孝夫が指摘 (2ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Koike Yoshihiro

まだピークは過ぎていない

 では今年、技術的に大きな問題がないにもかかわらず、山田本来の成績を残せていない最大の理由は精神面ではないかと思う。具体的に言えば、村上宗隆の存在だ。

 ここ数年、 "ヤクルトの顔"は間違いなく山田だった。そんな山田も30歳になり、まだまだ衰える年齢ではないが、トリプルスリーを達成していた頃に比べれば、体力、気力、集中力といった部分で少し落ちているのは否定できないだろう。これは山田だけの問題ではなく、アスリートであれば誰しもが経験することである。

 ちょうどそのタイミングで村上が台頭してきた。とくに今季は、三冠王も視野に入れるなど圧倒的なバッティングを見せつけている。目の前でこれだけのバッティングを見せられたら、同じチームメイトとはいえ、焦りも出てくるだろうし、面白いはずがない。昨年まで自分に集まっていた注目度が、今は村上に向けられている。山田としても、これまで勝っても負けてもチームを背負い、人知れず重圧と戦ってきた自負があるはずだ。

 断言はしないが、おそらく山田のなかにそうした気持ちがあるのではないか。もちろん本人に聞けば、否定するだろう。だが今年の山田のプレーを見ていて、そう感じるところがある。

 そうした気の乱れみたいなものが無意識にスイングを狂わせ、あるいは気乗りしないまま打席に向かっているのではないか。それでなくても、もともと山田は気分に左右されるところがある打者だ。よく言えばやさしい性格。悪く言えば、気弱でムラっ気が多い。

 だからというわけではないが、スイング自体は悪くないのに、ヒットに仕留められるはずの甘い球を打ち損じる、普段なら手を出さないボール球を打ちにいって凡退する......。今シーズン、そんな打席を何度も見た。

 誤解しないでほしいが、山田がピークを過ぎた選手と言っているわけではない。年齢的にも、野手としてこれから円熟期に入る。まだまだタイトル争いに加わっていくだろうし、チームの主力として頑張ってもらわないといけない。ただ、いつかは自分よりもすごい打者が目の前に現れるということは避けられない。

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