甲子園を目指さない高校球児も急増。「負けたら終わり」のトーナメントは時代錯誤なのか

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Kyodo News

【短期連載】令和の投手育成論 第7回

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 20歳の高卒3年目右腕・佐々木朗希(ロッテ)が4月10日のオリックス戦で完全試合を達成した翌週、17日の日本ハム戦で8回までパーフェクトに抑えながら降板したことで、あらためて投手の「育成論」が議論されている。

2019年夏、岩手大会決勝で登板を回避して物議を醸した佐々木朗希(写真左から2人目)2019年夏、岩手大会決勝で登板を回避して物議を醸した佐々木朗希(写真左から2人目)この記事に関連する写真を見る

甲子園を通過点ととらえる球児

 周知のとおり、佐々木は大船渡高校3年夏の岩手大会決勝を"回避"した。この決断が物議を醸したのは、勝てば同校にとって35年ぶり甲子園出場だったからだ。

 当時は賛否両論だったが、それから3年間で"令和の怪物"は驚異的なスピードとスケールで成長し、「あの時の起用法は正しかった」と國保陽平監督(当時)を讃える声も少なくない。その一方で、高校野球の起用法と今回の偉業を結びつけて語るべきではないという主張もある。

 さまざまな意見を見ながらあらためて感じるのは、「甲子園」という存在の大きさだ。100年以上の歴史を誇る日本の文化で、MLB中継でも耳にすることがある。菊池雄星がトロント・ブルージェイズに移籍して初登板となった4月12日の現地放送では、松坂大輔や田中将大という甲子園からメジャーへ羽ばたいた投手たちに加え、花巻東高校時代に菊池と大谷翔平を育てた佐々木洋監督が賞賛されていた。

 そうしたなか、日本の現場に目を向けると、甲子園を「通過点」と位置づける高校球児も増えている。

「あいつが面白いのは、『甲子園』という言葉で成長を促してもまったく興味を示さないんです」

 京都国際高校の小牧憲継監督がそう話したのは、今秋のドラフト候補として注目される左腕投手・森下瑠大についてだ。「京都でプロのスカウトに一番見てもらえる」ことが同校に入学した志望動機だったという。

 京都国際のグラウンドは、右翼60メートル、左翼75メートルほどと決して恵まれた環境ではない。2008年に就任した小牧監督は「個人の能力アップに特化するしかない」と曽根海成(広島)や上野響平(日本ハム)らをプロに送り出し、「京都国際に行けば成長できる」という評判が立った。今や強豪校の誘いを蹴り、入学を望む選手も増えている。

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