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元中日・荒木雅博は「イップスも生活の一部」にして名二塁手となった (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

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 試合前のバッティング練習では、あえてセカンドの頭上にライナーを打つ練習を繰り返していたという。

「バッティングピッチャーのボールなら、どのコースでもセカンドの頭上へ持っていけるように調整していました。どうしてそんな窮屈なバッティングをしていたかというと、毎日同じことをやってルーティンにしていかないと、その日の調子がわからないから。『今日はここのコースはバットの出がいいな』と点検していくことで、自分の体調やバッティングの状態が確認できるんです。とにかく毎日、同じことを繰り返すことで見えてくるものがあります」

 毎日同じことを繰り返し、点検する──。

 それはイップスを発症した荒木が、その後10年以上にわたってプロの一線級で戦えた要因でもある。

 荒木は「1回イップスになってしまったら、野球をやめるまで治らない」と断言する。だから、荒木は引退するまで「イップスを克服した」と思えた日はなかった。

「もう、日々のルーティンをしっかりやるだけでした。キャッチボールからノックまで、『これとこれとこれの形の練習をやる』と毎日繰り返して、気をつける。練習で意識し続けて、初めて試合では無意識でプレーできるわけですから」

 キャッチボールでは自分のフォームやボールの回転。ノックでは足のステップ、送球時の左肩の角度やリリース位置を確認する。もちろん、それは捕球した位置によって微妙に異なってくる。気の遠くなる作業を毎日、欠かさずに繰り返した。

 イップスを改善するにあたって、もっとも注意しなければならないこと。荒木は「100パーセントを目指さないこと」だと考えている。

「人はなんでもかんでも、ゼロから100を目指していくものですけど、イップスは最初から100を目指してしまうとうまくいかないんです。僕はまずゼロから50のところを目指して、試合に出ながらうまくしていったほうがいいと思う。そうしないと、『うわ、まだ治らない。まだ治らない......』と苦しくなってしまう。どこかで妥協点を見つけることが必要だと思います」

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