「王貞治の一本足打法は弱点でもある」。遅い球で詰まらせた安田猛の秘策

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

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【安田猛の王貞治対策は「一本足のバランスを崩す」こと】

――前回に引き続き、ヤクルト時代にバッテリーを組むことが多かった、2月20日に亡くなられた安田猛さんとの思い出を伺っていきます。前回のラストでは「王貞治さんとの対決が懐かしい」とおっしゃっていました。確かに、安田さんと王さんの対決は名勝負ばかりでしたね。

八重樫 安田さんも王さんとの対戦に燃えていたし、王さんも安田さんとの対戦には意気込みを感じていたように思います。実際に安田さんは"王さん対策"として、いろいろなことを試していました。基本にあるのは「一本足のバランスを崩す」ということでしたね。

巨人・王貞治と数々の名勝負を繰り広げたヤクルトの安田巨人・王貞治と数々の名勝負を繰り広げたヤクルトの安田――王さんが打席で一本足になった状態でバランスを崩させるということですね。

八重樫 王さんは、一本足で立っても決してバランスを崩さない。それはもう本当にすごくて、びくともしないんです。でも、安田さんはとにかく「テンポを変える」ということを意識していました。キャッチャーから返球があったあとにすぐに投げる。逆に、なかなか投げない。投球を開始して右足を上げたのに、じっとしたまま投げない。あるいはクイックで一気に投げる。人を馬鹿にしたような緩いカーブを投げたと思えば、インコースを突くシュートを投げる。本当にいろいろな工夫をしていましたね。

――以前、安田さんにインタビューした際に、「王さん対策」を伺ったことがあります。緩いカーブを投げた時に、解説の荒川博さんが「神様に向かって、あんなボールを投げるなんて失礼だ。この若造が!」と激怒したと言っていました。

八重樫 それだけ安田さんも必死だったんですよ。安田さんはコントロールがすごくよくて、フォアボールが少なくて有名でしたよね。本人もフォアボールを出すことをすごく嫌っていました。彼の意識の中では「フォアボールならヒットでいい」と考えていましたから。王さんに対しても、「ホームランはダメでもヒットならいい。フォアボールはイヤだ」ということを徹底していました。

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