「バカヤロー、こんな球を投げやがって」魔球とともに駆け抜けた安田猛の野球人生 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

「スローボールは1試合完投したら、15球くらいは投げていた。ただ、打ち取るための球じゃなく、バッターを怒らすための球。相手が『バカヤロー、こんな球を投げやがって!』となってくれたらいい。それに2ストライクからインハイへ力を入れて投げると疲れるけど、スローボールだと楽だし。いろいろメリットがあったんです」

 安田が左膝半月板を痛めて現役引退する際、王のコメントに胸が熱くなったという。

「これまで泳がされて打ち取られたピッチャーはたくさんいる。ただし、安田は詰まらされて打ち取られた数少ないピッチャーのひとりでした」

 そんな王の好敵手として名を馳せた安田だったが、じつは阪神キラーでもあった。『がんばれ‼︎タブチくん‼︎』のなかで親友であり、悪友でもあるタブチくんのモデルである田淵幸一との対戦について聞いた時には、こんな衝撃発言が飛び出した。

 攻めの基本はインコースと語っていたので、てっきり田淵に対しても真っすぐとスライダーの内角攻めが基本だと思っていたら、安田が「僕は真っすぐを投げなかったから、スライダーでインコースです」と言ったのだ。

 田淵に対して真っすぐを投げなかったという意味だと受け取っていたのだが、そうではなく「誰にも投げなかったですよ。だって、僕の普通の真っすぐを投げて打たれるより、曲げたほうがいいから」だと。とはいうものの、プロのピッチャーでストレートを投げないなんて聞いたことがない。ましてや、高校時代は本格派だった投手だ。

「ゼロですよ、ゼロ。僕にストレートという球種はなかったってことです(笑)」

 普通の投手のストレートが、安田にとってはスライダーやシュートだったということか......。よくよく話していくと「つり球に投げたことはあった」と認めたが、それでも「ストライクゾーンにはまず投げなかった」と言った。

3 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る