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その周到な準備や洞察力は「神」の領域。
鈴木尚広はこうして27.431mを支配した (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Sankei Visual

── 現役時代、鈴木さんのところに若手が話を聞きにくることはありましたか。

「もちろん聞いてきましたが、そもそもそれぞれの感覚が違いますから。だから、教える、教えないという関係ではなく、雑談が一番いいと思います。軽い会話のなかで、自分に合うものを取り入れてもらったほうがいい。目線が一緒なら若い選手も気軽に話せるでしょうし。『ここだったらこうじゃない?』とディスカッションしながら、一緒に感覚を引き揚げていく」

── 鈴木さんは論理的に突き詰めているからこそ、盗塁の成功率も高まっていったのでしょうか。

「ロジックは重要ですよね。感覚で走るだけでは、おそらく限界がきます。僕が(教える)相手の言葉を引き出してあげることによって再現性が高まり、『こうしよう』『ああしたい』と発せられるようになる。そこで、それぞれのメソッドがつくられる。だから、僕のことはマネできないですし、僕は増田大輝(巨人)のマネをできない。感覚が一緒ではないですから。でも、彼のなかに引き出しをつくってあげることはできます」

── スタートを切る際、相手投手のクセを見抜けるかもポイントになると思います。どのようにしてわかるようになりましたか。

「最初はわからなかったですが......勉強ですね。何度も映像を見ながら、見えるように集中力を高めていく。そうすると、だんだん見えるようになってきます。最初は『クセは肩に出るかな?』と1点を見ていたのが、だんだん目線が広がり、パッと見た瞬間にちょっとした違う動きに気づけるようになりました。

 けん制の時だけグラブのマークが見えたり、ボールの握りやグラブの位置などですね。そうやって自分のなかで根拠立てをして、確信できれば思い切ったスタートができる。迷いを消すための作業です」

── クセを研究し始めたのはいつですか。

「一軍に定着してからです。いいスタートが切れたら足も生きるし成功率も上がる。でも、スタートが悪ければ、どんなに足が速くても成功率は下がる。そう思って、いいスタートを切るにはどうすればいいかを考え始めて、試合前、試合後は資料室でビデオを見ていました。一番難しいのは、ビデオでクセがわかったとしても、試合でわかるかどうか。ビデオで見るのと、ランナーとして実際に見るのでは見え方が違いますから」

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