パ・リーグDH誕生秘話。それは世界一の代打男の執念と技術から始まった

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

特集『セ・パの実力格差を多角的に考える』
第7回 パ・リーグDH制の始まり

 巨人が提案した、セ・リーグへのDH制導入。昨年12月と今年1月の同リーグ理事会では反対多数で見送られたそうだが、この一連の動きを見聞して、次のように思った野球ファンもいるのではないだろうか。

 今のセ・リーグでは賛否がわかれているようだけど、「パ・リーグが導入した当時はすんなり決まったの?」「そもそも、どういう経緯で導入されることになったの?」と。

 筆者は、DH制導入のきっかけをつくったと言われている野球人に会ったことがある。昭和の時代、阪急(現・オリックス)で活躍した強打者の高井保弘。惜しくも一昨年12月、74歳で亡くなられたのだが、生前、取材の席でこう言っていた。

「指名打者はね、アメリカの新聞記者の人がワシのことを書いた記事がきっかけになって始まったんよ。『パ・リーグで採り入れたらどうや?』って」

1974年のオールスターで史上初のサヨナラ逆転本塁打を放った高井保弘1974年のオールスターで史上初のサヨナラ逆転本塁打を放った高井保弘 通算代打本塁打27本の世界記録を持つ"代打男"の高井が、なぜDH制導入に関わったのか。その原点には、一振りにかけた男の執念と技術と野球人生が凝縮されていたのだった。

 もともと、筆者が高井に面会したのは、代打の一振りで結果を残すために投手のクセを盗み、球種を判断する技術として生かしていたという逸話に興味を持ったからだ。取材の席に"クセ盗みメモ"を持参した高井は、懇切丁寧に説明してくれた。

「たとえば、(投手が)セットに入る時、グローブが降りてくる速さの違いで、真っすぐか、変化球かがわかったり。それと、グローブがベルトラインより上に止まっていたらシュートとかシンカー、真ん中にくるとカーブとか。あとは、グローブの先がピュッと立った時は真っすぐとか、そんなんで見分けたりしたんやね」

 クセは文字と記号と図で表現され、一球団ごとにメモ帳一冊分、全投手のクセが記してあった。その年に初めて対戦する新人投手でも、シーズン中盤頃には明確なクセを発見していたという。

「向こうも天狗になっとるから、なんでも抑えられるわっちゅうようなもんで、簡単にやりよるんやろね。そうなると、ポッとクセが出るわけよ」

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