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「今の何?」スローカーブの名手・
星野伸之が投じていたもうひとつの魔球 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 そんな落合からも一度だけ空振りを取ったことがある。ただ、それは得意のスローカーブではなく意外なボールだった。

「フォークのすっぽ抜けでした。イメージと違う軌道になったことで、たまたま空振りが取れたんですけど、あれも普通に落ちていたら、おそらくスタンドまで持っていかれていたでしょうね」

 星野はプロ入りした時から体は細く、ボールにスピードがあったわけでもない。球種もカーブしかなかった。だから、球団としてはそのうちワンポイントか中継ぎで使えるようになれば......というくらいの獲得だったのかもしれない。それが先発として大成し、通算176勝もあげるのだから、野球は面白い。

 一度は、そのカ-ブが遅すぎるがゆえにニュースになったことがあった。それはキャッチャーが星野の球を素手で捕球した、というものだった。それくらい遅いボールでも使い方、描く球筋によってはプロのバッターでも打てなかったのだ。ただ、やはり少ない球種で長く続けられるほどプロ野球は甘くはなかった。

「途中からフォークを使いだしたので、あれだけ勝てたのだと思います。僕はほかのピッチャーのように指を縫い目にかけないか、1本だけかける握りだと、指に力がないので滑って抜けてしまうんです。だから、人差し指と中指の2本とも縫い目にかけてみたら、これがよかった。落差も出たし、おそらくこの握りのおかげで、普通のフォークは回転せずに落ちるのに、少し回転しながら落ちた。それがバッターにはストレートのように見えて厄介だったんじゃないでしょうか」

 それに加えて、独特のテイクバックをした投球フォームが打者を打ち取るのに役立った。バッターからすればタイミングが取りづらかったのである。

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