就職内定から一転プロ志望届。ヤクルト育成4位の心はナゼ変わったか (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 武田監督は「おまえは働いたほうがいい」と何度も諭した。すでに内定をもらっている企業への体面があり、なによりも武田監督には選手に対して「親御さんから人生を預かっている」という責任感と信念があった。だが、度重なる説得にも丸山は首を縦には振らなかった。

 春のシーズンがなくなったことで、丸山のなかで「自分はまだやり切っていない」という思いが募っていた。

「やらせてもらうからには、ひとつ上のレベルでやりたい」

 そう語る丸山に、武田監督は「もしそうなったら、その時に話そう」と言うにとどめた。

 4月に緊急事態宣言が発令され、満足にチーム練習ができない時期でも、丸山は独自で練習に励んでいた。

「自分はリリーフのピッチャーなので、リーグ戦で土日に連投できる筋力と体力をつくろうと、週5日のブルペン投球と肩周りの筋トレを続けていました」

 下級生時には多くの球数を投げると肩関節に痛みがくることもあったが、肩甲骨周りの細かな筋肉を鍛えるようにしてから故障をしなくなった。連日投げても体に負担がこなくなり、ボールの勢いも見違えてよくなった。

 そんな日々を過ごし、8月にある転機があった。

 西日本工業大のグラウンドで行なわれた北九州市立大とのオープン戦に、8球団のスカウトが視察に訪れた。北九州市立大はドラフト候補右腕の益田武尚(たけひさ)、西日本工業大は来秋ドラフト上位候補に挙がる3年生左腕・隅田知一郎(ちひろ)が先発。丸山は隅田のあとを継いで6回から登板し、無失点。試合は1対0のロースコアで西日本工業大が勝利した。

「あの2番手の子は隠し玉ですか?」

 試合後にスカウトから話しかけられ、武田監督は驚いた。

「とんでもない。一般就職が決まってる子ですよ」

 そう答えると、スカウトはこう言った。

「ウチのスピードガンで148キロ出ていましたよ。もしかして、ソフトバンクの隠し玉じゃないですよね?」

 4年春時点での丸山の最高球速は142キロ。短期間で最速が6キロ上がったことになる。スカウトの「ソフトバンクの隠し玉」発言は冗談にしても、これだけの素材なら十分にドラフト候補に挙がるという評価だった。

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