「野球やめるしかないな」。王貞治はスランプの柳田真宏に冷たく言った (2ページ目)
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"本家マムシ"毒蝮三太夫にそっくりな笑顔になっていた。ふと、ここまでの話に通底する事柄が浮上する。「首の皮一枚がつながった」という一打もそうだが、柳田さんの場合、切羽詰まった状況になると、かえって力を発揮できているように思える。
「あっ、それはあるかもしれません。僕ね、カツーンときたり、カーッとしたときは意外と打てるんですね。高校のときも、1打席目に三振したら監督に怒られて、2打席目にホームラン打ったり。巨人が9連覇したとき、ここで阪神に負けたら8連覇で終わり、っていう試合でもそうでした。8回表に自分の守備のミスで1点勝ち越されて、その裏、打席は僕からだったんです。
そしたら、あるコーチに『打って還せー!』って鬼の形相で怒鳴られた。本人、言われなくても百も承知ですよね。だから、これは幹部批判で絶対にいけないんですけど、カーッときて『何が打って還せだ、こら』ってなっちゃった。それでもう『この野郎』って思いながら行ったら、僕、同点ホームラン打っちゃって、結局負けなかったんです」
1973年のV9達成時に、柳田さんの貴重な一打があった。その一打が、コーチに食ってかかるほどの熱い性格から生まれたことは知らなかった──。思えば、まだ若手だった頃の亀井善行も、緩慢な守備を指摘されたコーチに反発して、一触即発の事態になりかけたことがある。しかし、そんな共通項を持ち出す間もつかめないほど、柳田さんの語りは勢いづいている。
「カーッときたときは打席で何も考えないし、何の怖さもない。だから逃げることがないんです。顔のあたりにバーンとこようが、どこでもほうってこい、ぶつけるならぶつけろ、当てりゃいいじゃないか、って感じで」
ささやくようだった声がにわかに野太くなり、束の間、鋭い目つきになった。「打席で何も考えない」とは長嶋監督との特打にもつながる。そのときの監督はバッターの本能というより、柳田さん本来の性格を呼び覚ます練習によって、自信をつけさせようとしたのではないか。
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