人生初の大スランプにおさらば。今永昇太は複数の新感覚をつかんだ (3ページ目)

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Kyodo News

 真っすぐがよくなれば、当然、変化球の質も向上する。ピッチングの組み立てにおいて今永はスライダーを重用するが、昨年は若干膨らんでいた軌道が鋭くなり、ストレートとの見分けが非常に難しくなっている。いわゆる"ピッチトンネル"を実現しているわけだが、昨年の今永は、あきらかに変化球待ちのバッターにストレートを被弾されたり、またその逆もしかり。攻め手を欠く場面が目立っていた。

「とにかくバッターの判断を遅らせるために全部の球種を真っすぐのラインに入れること。それはいつの時代も一緒だと思うんですよ。今は"ピッチトンネル"という言葉がありますが、昔のピッチャーの人たちもそれを意識していたはずですからね」

 また、見るかぎりスライダーの曲がりに大小があるようで、局面によって使い分けているのかと思ったが、そんなことはないと今永はかぶりを振った。

「いや、僕はカットボールを投げられませんし、意識的に小さく曲げたり、大きく曲げたりはしていません。球速の違いはあるけど、僕のなかでは全部同じスライダーになります」

 確実なスキルアップを遂げている今永だが、それを生かすも殺すも大切なのは精神面であり、マウンド上でどのような気持ちでいられるかだ。昨年のように判別がつかず、うつろな表情をしている今永はもういない。

「今シーズンは冷静ですよね。漠然と投げていない。去年は自分と勝負してしまって、ただキャッチャーのサインにうなずいて、ストライクを投げなくちゃいけないという思いばかりでした。だけど今は、どんなボールでカウントを取るのか、ファウルを打たせられるのか考えられるようになりましたし、相手のスイングの軌道など、一歩引いたところで見られるようになりましたね」

 勝利数はもちろんのこと、防御率や奪三振、投球イニング数はリーグトップクラス。今では今永が投げれば大丈夫だ、という雰囲気も醸成され、内外から"DeNAのエース"と認識されつつあるが、今永としては現状をどのように感じているのだろうか。

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