2019.06.21

人生初の大スランプにおさらば。
今永昇太は複数の新感覚をつかんだ

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • photo by Kyodo News

 DeNAの今永昇太は、瞳に若干の影を宿し、ポツリと言った。

「あのままだったらプロ野球選手としては短命というか……正直、自分は大丈夫なのかと考えましたよね。実際、開幕戦を投げるまで不安でしたから」

今シーズン、開幕から好調を続けているDeNA今永昇太 今季、球界ナンバーワン左腕の呼び声高い今永は内観する。春先まで昨シーズンの残像が脳裏に焼きついていた。左肩の違和感で出遅れるとリーグ最多の11敗を喫し、完全に自分を見失ってしまった。なぜ調子が上がらないのか、ストライクの取り方さえもわからなくなってしまった。マウンドの上で孤独に、ただただ戸惑うだけの自分がいた。野球を始めてから経験したことのないスランプ、そして挫折だったと言う。

 だが今永は朽ちることなくよみがえり、不死鳥のごとくマウンドで躍動している。

「今はこうすればいい、こうなったらダメという自分の体の特性や修正ポイントをきちんと理解しているので、あまり心配はしていないんです。微調整をするイメージで、これは去年にはなかった感覚ですね」

 復活の転機となったのは昨年の秋季キャンプだ。木塚敦志コーチと大家友和コーチに見てもらい、フォームと体の使い方を徹底的に修正した。木塚コーチの言葉が深く印象に残っている。

「今永の投げ方はそうじゃないだろう。もっと箱のなかで回転するような、狭い狭い路地を最短距離で体が入れ替わるようなフォームだったはずだ」

 今永は今季、投球の際、打者から見て背中側に出ていた左腕を体に隠すようにし、上体を突っ込み過ぎない脱力したフォームを手に入れた。オフはオーストラリアのキャンベラ・キャバルリーに所属し実戦経験を重ね手応えを感じると、さらにキャンプとオープン戦では磨きをかけていった。「先発の6番目に入れるようにしたい」と謙虚に語っていた男は、ついには初の開幕投手を任されるまでになった。

 前述したように不安を抱いていた開幕戦だったが、この試合が垂れ込めていた雲を払拭するきっかけになったという。今永は8120球を投げ11奪三振、中日打線を無失点で抑え開幕戦勝利を飾っている。

「これまでなかった感覚をあの試合でつかんだんです。今もその感覚が残っていて、シーズンを過ごせているんです」