吉井理人が説くコーチングの極み。選手との「振り返り」がひと味違う (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 もともと、振り返りはネガティブな話から入らないようにしている。たとえば、前日登板した投手の自己評価が100点満点で20点だとしたら、80%はダメだったことになるのだが、あえて20%のポジティブな話から入る。ダメだったほうが話のネタは豊富にあって話しやすい半面、先にそこを取り上げると参加している選手全員の気持ちが沈んでしまうからだ。

 そこでポジティブな話から入ると、自然と周りはよかったことについて話すから、たとえ20点でも褒められたような感覚になる。気持ちが前向きになって、ダメだった80%をちゃんと直していこうとあらためていく力につながる。じつに細やかな気遣いだと感じる。ただ、そこまで気を遣っても、元通りになってしまう選手がいるのはなぜなのか。

「そのあたり、選手とコーチの関係性が影響しているかもしれません。選手は知らず知らずのうち、『コーチの方が立場は上だから、あんまり本当のことを言わない方がいいのかな』と思っている可能性がある。こちらは選手を評価する立場じゃないですか? 評価して、監督に起用法を提案する立場なので、それで遠慮して本当のことを言えない、といった関係性になっているかもしれない。でも、そこを取っ払って信頼関係を築かないと、なかなかコーチングってうまくいかないんです」

 コーチはまず選手よりも年上。日本には年長者を敬(うやま)う文化があるから、常に上下関係がついて回る。立場が上で評価を下す人間に対して、ときに遠慮が生じても無理はないと思える。

その点、旧来のコーチ対選手の関係性こそは、まさに遠慮してしまう関係性だったのではないか。自ら言葉を発しにくい選手に対し、コーチがよかれと思ったことを上から教える、その教えが選手の邪魔になるときがある。

 だからこそ吉井は、教えるのではなくてサポートをすべきだと言い、遠慮する関係性を取り払って、お互いに信頼できる関係を築くべきだと説く。選手もコーチもプロ、個人事業主だから、「グラウンド上では上下関係に重きを置かない」という考えだ。

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