吉井理人が説くコーチングの極み。選手との「振り返り」がひと味違う (3ページ目)
「もしかしたら、コーチの立場で『バーン!』って答えを言ったら即効性はあるかもしれませんけど、(効力が)消えるのも早いですよね。それがその選手にとっていいことなのかどうか、という疑問はあります。『プロなんで、それでいいよ』っていう考え方もあるかもしれないですけども、僕のやり方はちょっと違いますね」
吉井の振り返りが「ちょっと違う」のは、選手が失敗した時の感情までしっかり振り返らせることだ。たとえば、二死満塁で2ストライクからフォークボールを投げた場面。球が高めに浮いて、ホームランを打たれたときを振り返ったとする。「緊張して力んだ」だけで終わったら、必ずまた同じ失敗を繰り返してしまうという。
「緊張している自分はどうしようもないので、それを認めて、緊張したらどういうミスをするか、原因まで知っておけば、最小限の失敗で済むと思うんです。その点、ピッチャーによって違いはありますが、緊張して力んだら、たいていフォームが乱れています。だったら、緊張した時に自分のフォームがどう変わりやすいか理解していれば、修正法を考えられますよね。球が浮いた原因もわかるんで、単に『ここは低めに投げなきゃ』と思うだけじゃダメなんだとわかる。逆に言うと、ミスした場面を深く振り返って思い出さないと原因はわからない。これも大学院で勉強しないと気づかなかったことです」
ピンチの場面、感情の変化が知らぬ間にフォームの変化につながり、ミスが起きる。心の動きがフォームという技術に影響して、ボールを制御しにくくなる。そのことを知っていれば、ミスが少なくなる。あらためて、心技体という言葉がクローズアップされるかのようだが、この感情と技術の関わりにしても、吉井が選手に伝えるわけではないという。
「"伝える"というよりも、"気づかせていく"ということですね。選手たちはわかっているはずなんですよ。マウンドで、どういうボールを投げたら打たれないか、わかっていて、意識して投げてるんですけども、やっぱり失敗しちゃうんですよね。その失敗する理由を自分で探せるようになってもらいたいんです。時間はかかりますけど、プロ野球シーズン、長いので。一発勝負だったら、そんなこと言ってられないですけど、やり直す機会はいっぱいあるじゃないですか」
つづく
(=敬称略)
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