吉井理人が説くコーチングの極み。
選手との「振り返り」がひと味違う

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

【連載】チームを変えるコーチの言葉~吉井理人(3)

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 コーチは選手の邪魔をしてはいけない。コーチは教えてはいけない。教えるのではなくて、あくまでも選手のサポートをしないといけない――。

 それが自身の「コーチングの哲学」だという吉井理人は、何より選手とのコミュニケーションを重視する。普段からの対話はもとより、とりわけ大事にするのが「振り返り」という作業だ。シーズン中、おもに成長過程にある若い投手とともに、前日の試合の一場面をテーマに振り返ることが多いそうだが、果たして、どういう時にその手応えを感じるのか。吉井に聞いた。

伝えるよりも気づかせることが大事と語る吉井理人コーチ伝えるよりも気づかせることが大事と語る吉井理人コーチ「2017年のファイターズでの話になるんですが、1シーズン、3人の先発ピッチャーの話を記録したんです。そしたら3人それぞれ、前半にしゃべっている内容と後半にしゃべっている内容が違ってきて、ちゃんとゲームのなかで、うまく自分を立て直すような考え方に変わってきてるな、という流れが見えたんです」

 話の記録は、まさにその場で対話を録音して、文字起こしをして読める状態にしてある(録音は選手の許可を取った上で行なっている)。そこまでやらないと「コーチとしての責務を果たせない」と吉井は考えている。実際、記録してあったからこそ、前半と後半の違いに気づけたわけだ。

「ただ、なかには、せっかく考え方が変わったのに、また戻っちゃう選手もいる。これは本人の性格もあると思うんですが、実際に翌年、2018年はひとりの選手が元に戻ってしまって......。そこを自分で気づいて『直していこう』と思うようになっていかないと、なかなか順調に成長できないですよね。

振り返りにしても、もしかしたら僕が答えを言ってしまって、対話のなかで答えが出るように誘導してしゃべらせている可能性があるので。自分から本当に気づいて、答えに向かってしゃべっているかどうかはわからない。そこは僕の方で改善しないといけないな、と思いました」

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