西武もヤクルトも好機で代打なし。打席に立つ両エースが背負った信頼 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

精も根も尽き果てて、胴上げに参加できなかった

――そして、その直後の7回裏にはシリーズ屈指の名場面が訪れます。1-1の同点、スワローズは1アウト満塁のチャンスを作ります。代打に登場したのは初戦で代打サヨナラ満塁ホームランを放った杉浦享選手。どんな心境で杉浦さんを迎えましたか?

石井 外野フライでもダメな場面ですから、とにかく「低い球で内野ゴロを打たそう」という意識だけでしたね。もちろん三振でもいいんだけど、「ゴロを打たせたい」という意識でした。結局はセカンドにゴロを打たせたけど、あれは辻(発彦)さんのファインプレーに救われました。本当に助かりましたよ。

映像を見ながら当時を振り返る石井氏 photo by Hasegawa Shoichi映像を見ながら当時を振り返る石井氏 photo by Hasegawa Shoichi――この場面では三塁走者の広澤(克実)選手の走塁、スライディングも問題となりました。

石井 ひょっとしたら、広澤さんは「抜けた」と思ったんじゃないですか。「ヒットだ」と思って走っていたら、辻さんが捕ったんで、慌てて走って、ああいうスライディングになっちゃったんじゃないですかね。それぐらい難しい打球でしたから。

――石井さん自身も、「抜けた」と思いましたか?

石井 打球が自分の左側に飛んだから、当然一塁にカバーに入るわけですけど、僕は「ヤバい!」と思いました。でも、辻さんが捕球して、ホームに投げる体勢になっているのが見えたので、送球の邪魔にならないように慌ててかがみました。これで2アウトになったから、「絶対に後続を抑えなきゃ」となりましたね。

――2アウト満塁で迎えた、スワローズのバッターを覚えていますか?

石井 杉浦さんの後は誰だったかな? 土橋(勝征)だったっけ? えっと、ちょっと......。

――スワローズの打者は岡林さんでした。スワローズもまた、チャンスにも関わらず、この場面で代打を出さずに「岡林続投」を選択したわけです。

石井 あぁ......、岡林くんでしたか。野村(克也)監督も、森(祇晶)監督も意地の張り合いというか、本当に岡林くんと僕を買っていてくれたという証拠ですね。そういう試合も珍しいですよね。

――結局、そこで点は入らずに試合は1-1で延長戦に入り、延長10回表に秋山幸二選手が決勝の犠牲フライを放って、ライオンズが2-1で勝利。3年連続の日本一となりました。最終回はスワローズの誇る古田敦也、広澤、ジャック・ハウエルを三者凡退に打ち取りましたね。

石井 最終回はもう必死でした。だから、僕は胴上げに参加できなかったんです。マウンドにいるのに、疲れ果てて、精も根も尽き果てて、マウンド近くでぐったりしていたんです。「やっと終わった......」という感じでしたね。シリーズMVPにも輝いて、盆と正月がいっぺんに来たような感じでした。

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