練習量より「己を知る」で変心。
西武・金子侑司は盗塁王を獲得した

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

【連載】チームを変えるコーチの言葉~埼玉西武ライオンズ 作戦コーチ・橋上秀樹(3)

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 もう5年前のことになるが、日本ハムのルーキーだった大谷翔平(現・エンゼルス)が「8番・ライト」でスタメンデビューした2013年の開幕戦。"二刀流"で注目された大谷だけに、イニング間キャッチボールするたび、スタンドのファンがざわめいていた。

 実はこの試合、対戦相手の西武にも同じライトでスタメンデビューしたルーキーがいた。今や外野のレギュラーに定着した金子侑司(ゆうじ)である。

2016年には53盗塁を記録し、盗塁王のタイトルを獲得した金子侑司2016年には53盗塁を記録し、盗塁王のタイトルを獲得した金子侑司 俊足で身体能力が高い金子は、プロ1年目から打っては1、2番、守ってはショート、セカンドもこなした。しかし両打ちの打撃がなかなか安定せず、3年間レギュラーをつかめず、ポジションもはっきりしなかった。

 そんななかで迎えた2015年のオフ、作戦コーチに就任した橋上秀樹は、金子の動きをひと目見てひらめくものがあった。そのときを橋上が振り返る。

「こちらにお世話になってすぐ、秋季キャンプで金子侑司を見て、とにかく脚力がすばらしいな、と思って。これは出塁率さえ上げられれば、それこそ盗塁王も夢じゃないな、と感じました。それでキャンプが終わるときに彼と個別で話をしたんです。『何でお金を稼ぐ気でいるんだ? オレもいろんなチームを見て、いろんな選手を見てきたけど、お前の脚力、かなり抜けているぞ』っていう話から始めて」

 橋上は金子の足に魅せられた一方、その打撃練習ぶりに若干の疑問を感じていた。というのも、当時の西武では、どちらかといえば「遠くへ飛ばす」という考えが主流になっていた。練習スタイルもその考えのもとで決まっていたのだが、金子が中村剛也や浅村栄斗と同じように振る姿に、橋上は違和感を覚えたのだ。

 両打ちの金子は、学生時代から左打席では巧打、右打席では強打という特徴があり、長打力もあったとはいえ、2015年は176打席に立って1本塁打、打率.224、出塁率.271。「この数字でその練習はないだろう」と思い、橋上は金子にこう言った。

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