練習量より「己を知る」で変心。
西武・金子侑司は盗塁王を獲得した (2ページ目)
「中村とか浅村に比べると、お前はちょっと違うんじゃないか? お前の本当の武器はなんだ? 彼らと一緒のようにやっていて、年間30本、40本、打てるのか? そんなことよりも、押しも押されもせぬレギュラーになるためには何が必要なんだ?」
そこで橋上が例に出した選手が、日本ハムの中島卓也だった。中島はその年、プロ7年目で自身初の全試合出場を果たし、やはり自身初のパ・リーグ盗塁王を獲得した。打率は2割6分台も出塁率は3割5分と高く、ファウル打ちで粘って投手に球数を投げさせる打撃スタイルが特長だった。
守ってはショートのレギュラーに定着し、推定年俸は4000万円から8000万円に倍増した。金子の推定年俸がその3分の1以下であることにあえて橋上は言及しつつ、さらにこう続けた。
「どう見たって、お前の持っている能力の方が高いんじゃないかな? でも、なんで給料がこんなに違うんだ? やっぱり、中島は徹底しているだろ? あいつは自分の打撃スタイルを、『足をより生かすためにはどうするか』というところから考え始めている。
だから『当てにいけ』とは言わないけども、選球眼を磨くなり、ミート率を上げるなりしていこう。で、もしも今オレが言ったことに納得するなり、理解するなりしてくれたなら、来年の春のキャンプで『金子は変わったな』っていう印象を与えられるようにしてくれ」
果たして、翌2016年の春季キャンプ。橋上から聞くまでもなく、打撃コーチ、走塁コーチが「金子は変わりましたね」と言ってきた。打撃練習ではミートすることに徹し、右打席と左打席で大きなムラがなくなり、選球眼が改善されつつあった。結果、速球に対して振り負けなくなっていた。
そうして、その年の金子は自身初めて規定打席に到達し、打率は2割6分を超え、出塁率は3割3分台。盗塁は一気に53個も決めて、当時オリックスの糸井嘉男(現・阪神)と盗塁王のタイトルを分け合った。
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