終盤戦で全員好調は逆に不安。
打撃不振はティーバッティングが処方箋

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

名コーチ・伊勢孝夫の「ベンチ越しの野球学」連載●第28回

 いよいよプロ野球ペナントレースも大詰めを迎える。優勝争いはもちろん、セ・リーグではクライマックス・シリーズ(CS)進出をかけた戦いが熾烈を極めている。なかでもこの時期、チームの勝敗に大きな影響を与えるのが打線である。打者たちはどのように取り組み、それをサポートする打撃コーチはどんなことに気を遣っているのか。近鉄、ヤクルトなどで名コーチとして多くの打者を育てた伊勢孝夫氏に聞いた。

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かつて山田哲人も杉村繁コーチと二人三脚でティーバッティングに取り組んでいたかつて山田哲人も杉村繁コーチと二人三脚でティーバッティングに取り組んでいた シーズン終盤、打撃コーチのやる仕事というのは、実はそれほど多くない。投手コーチなら継投の順番を考えたり、先発ローテーションを決めて調整させたり、やることは多岐にわたるが、打撃コーチというのはせいぜい打順をいじることぐらいだ。それも基本的に大幅な入れ替えはしないから、少しいじる程度である。

 言い換えるなら、シーズン終盤に技術的なことを求めても意味がないというわけだ。だからといって、本当に何もしないわけではない。打撃コーチの一番の仕事は、選手たちの調子を見極めることである。

 打者とは面白いもので、どれだけ好調でも2週間程度しか続かず、徐々に調子は落ちてくる。なかには一気に不調になる選手もいる。逆に不調というのも特別な理由(故障など)がない限りそう長くは続かないもので、2週間もすれば調子は上向いてくる。

 これはほとんどの打者に当てはまることだが、イチローのように"超"がつく一流打者は、この調子が落ち始める前にいろいろと工夫し、好不調の波を小さくするセンスがある。

 だが普通の打者は、この好不調の波に抗(あらが)えない。それどころか、調子が落ち始めていることに気づいていない打者も少なくない。

 こうした調子の波というのは、シーズン終盤だろうが関係なくやってくる。もっとも厄介なことは、調子のよかった選手がCSや日本シリーズでまったく打てなくなることだ。そうした選手の調子を上げていくのが、打撃コーチの仕事となるわけだ。

 余談だが、広島はマジックが点灯してから、打線が奮わずに連敗を喫した時期があった。おそらく、それまでの疲れが一気に出たのだと思われるが、CSの頃には調子を取り戻すと思う。

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