「井の中の蛙」だった菊池雄星。残されたハードルを越えてメジャーへ

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • 小池義弘●撮影 photo by Koike Yoshihiro

 前日に自主トレ先のアメリカから帰国したばかりという菊池雄星(西武)は、見るからに時差ボケと格闘していた。

「お手柔らかにお願いします」

 2018年の春季キャンプが始まる数日前、今季の目標やオフの取り組みについて聞こうとすると、冗談半分、本気半分か、そんなセリフが返ってきた。

今年の開幕投手を務める菊池雄星今年の開幕投手を務める菊池雄星 重たげだった菊池の表情が台風一過のように晴れわたったのは、過去と現在を踏まえた「未来予想図」に話が及んだときのことだ。内容、成績ともに「球界ナンバーワン左腕」と誰もが認める投球を見せていた昨季終盤、果たしてどれくらい、自分の理想像に近づけたのだろうか。

「6割くらいですね。まだまだ伸びしろはあると思います」

 ストレートは球速150キロ台を連発し、制球力は劇的に向上した。高卒以来ずっと模索してきた投球フォームは、二段モーションの反則投球を取られてもすぐに立て直せるほど土台から固められた。身体の使い方を学びながら長期計画でトレーニングを重ねた結果、16勝6敗・防御率1.97と群を抜く成績を残している。投球内容、成績ともに、沢村賞に輝いた菅野智之(巨人)に少しも見劣りしないほど「別格」の域に達しながら、まだまだ成長できるというのだ。

 そう言い切る根拠は、オフの取り組みにある。

「今回、アメリカに2ヵ月行きました。自分は日本だったら一番体力も筋力もあると思っていたんですけど、アメリカで(メジャーリーグの4番やエース級と)一緒にグループトレーニングをやると本当に下のほうで、もっともっとやらなきゃと思って。逆に、そこが伸びしろなのかなと思いました」

 そう語る菊池の目は、キラキラと輝いていたのだ。

 ステイ・ハングリー――。スティーブ・ジョブズもそう語ったように、人は常に貪欲であることで成長を続けられる。目を輝かせながら自分の至らない点を語る姿に、菊池の原点を見た気がした。

 例年、シーズンオフにアメリカに渡ってトレーニングしているのは、ハングリーでいられる環境をあえて作り出すためなのだろうか。

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