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ドラフトなき時代。プロに「高校野球
経験ゼロの完全試合投手」がいた (3ページ目)

  • 小林信也●文 text by Kobayashi Nobuya
  • 写真提供:武智美保

 1954年(昭和29年)には弱小・近鉄にあって26勝。南海の宅和本司と並んで最多勝投手に輝いた。そして翌1955年(昭和30年)6月19日、大映スターズ(現在の千葉ロッテマリーンズの前身のひとつ)を相手にプロ野球史上2人目の完全試合を達成する。パ・リーグでは初の快挙だった。

 現役時代、武智投手と対戦した経験のある野村克也さん(元楽天監督)に取材を申し込むと、こう話してくれた。

「文(ふみ)さんが最多勝を取ったのは昭和29年。ちょうど私はプロ入り2年目、二軍暮らしだったから、一軍の試合を大阪球場のネット裏から投球を見ていた。いつでも打てそうな球だった。速くないし、球威もそれほどあるとは思えなかった。ところが、実際に対戦してみると思うような結果にならない。試合が終わってみると、4打数ノーヒット、そういう投手だった」

 野村さんは、『プロ野球 最強のエースは誰か?』(彩図社)という著書の中で、野村が選ぶ「近鉄・楽天の歴代投手ベスト10』を挙げている。

 1位野茂英雄、2位田中将大、3位鈴木啓示、4位岩隈久志、そして5位に武智文雄の名前がある。そして6位に則本昂大が続く。

 歴史を紐解いてみると、武智文雄のように高校野球を経験していないプロ野球選手はいないわけではない。3度の三冠王に輝いた落合博満は、秋田工出身だが、「野球部にはほとんどいなかった」という逸話がある。体育会的な体質になじめず、すぐ退部した。試合のたびに助っ人を頼まれるから、入退部を繰り返すような形だったらしいが、事実上、熱心に練習を重ねた日々はなかった。

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