WBCの悲劇。そのとき、豪腕サウスポー石井弘寿に何が起きたのか (5ページ目)
──肩の腱板が切れていたんですね。
「断裂しているので、治らないわけです。先生には『薄皮一枚くらいは残っているかも』とは言われましたが。その状態では、1シーズン通して投げられない。棘上筋(きょくじょうきん)と棘下筋(きょくかきん)という、肩を上げたり、回したりするときに重要な腱が2カ所も断裂しているということでした」
──相当なショックだったでしょうね。
「驚きました。そこまでひどい状態なのかと。先生やトレーナーの話を聞いたり、自分でも調べたりするうちに、日本人で同じ症状の選手がいないことがわかりました。ことの重大さに気づいて、落胆しましたね。それまで大きなケガをしたこともなかったので、どうしていいかわからず......家族にも本当のことを言えませんでした。
2006年は理学療法の先生と相談して、手術せずに保存療法でやってみようと考え、肩のまわりの筋肉やインナーマッスルを鍛えたのですが、少しよくなっても2試合くらいで投げられなくなってしまいます。プロのピッチャーは、ただ投げればいいというものではありません。結果が大事です。だから、そのオフに手術することに決めました。ずっと悩みましたが、あの状態ではリリーバーとして通用しませんでしたから」
──どのような手術でしたか。
「断裂した腱を縫合する手術です。ただ、縫い合わせたら元に戻るのかというと、そんなに簡単なものではありません。たとえば、それまで100の状態でプレーしていたとします。それが断裂してマイナス100くらいになったものを、手術でなんとか0の状態に戻しただけ。0とは、赤ちゃんと同じですね。そこからプロ野球で戦うために100まで戻すのは並大抵のことではありません。『リハビリで100に戻さないといけない』という現実を突きつけられて、かなり時間がかかると覚悟しました」
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