ロッテ・石川歩は大学時代、自らの才能に気づいていなかった (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「カーブいきます」

 へぇ~、スライダーじゃないんだ。最近、カーブを得意とする投手は本当に少なくなった。

 フワッと浮いて、ストンと落ちてきた。曲がってからが速い。これは空振りが取れるカーブだとわかった。

「シュート、いきます」

 ええっ、シュート?

「どんなシュート?」

「ちょっと沈む感じです」

 照れたような顔がなんとも人なつっこくて、ここで初めてホッとした。

 右打者の胸元あたりにハーフスピードで来たボールが、そこから「おおっ!」という私の叫びを聞きながら、スーッと沈んだ。その軌道は、魔球と呼ぶにふさわしかった。そんな一級品の球を持っているのに、当時の石川はなんともじれったい選手だった。

「いや、そんな……自分はまだそこまでの投手じゃないんで……」

 受けたボールの衝撃をウソなく語っても、彼は自分の才能を認めようとしなかった。ある意味、頑固。もしかして、謙虚の考え違い。青白い顔をして、自分の足元ばかり見ながら、自分を否定し続けていた。

 そんな石川が変わったのは、東京ガスの3年目。昨年になってからだった。春先に行なわれた大会を見に行った時に、スタンドで彼を見つけたのだが、遠くから見ると石川の体を見て驚いた。

「5キロ増やしました」

 増えた、じゃない。「増やした」という意志のこもった表現に、彼の変化がはっきり見えた。目つきも、投手らしい「オレ様」感が迫力となって表れていた。

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