プロ入り後、1637打席本塁打ゼロ。ロッテ・岡田幸文の挑戦
昨シーズン、野球ファンは球史に残る瞬間に二度も立ち会う幸運に恵まれた。ヤクルトのウラディミール・バレンティンの60本塁打と、楽天の田中将大(現ヤンキース)の開幕24連勝だ。このふたつの大記録は、アンタッチャブルレコードとして、これから深い眠りに入っていく可能性が高い。その一方で、80年近く眠っていた"ある記録"が目覚めようとしているのをご存知だろうか。
これまで2度(2010、2011年)ゴールデングラブ賞を獲得している岡田幸文。
横沢七郎という野球選手がいた。1936年に東京セネタースに入団。7年間の通算成績は平凡であるが、どこか異彩を放っているのである。出場448試合で1770打席に立ち、放ったヒットは263本。打率は.180と低く、盗塁も24個とわずかしかない。しかし、選んだ四球は248個もあり、これが出塁率.320という数字につながっている。ある意味、出塁率が重要視される現代の野球を先取りした選手だったのかもしれない。
ただ、この横沢という選手の最も個性的なところは、1770打席で1本のホームランも打つことなく引退したことだ。つまり、プロ初打席からホームランなしのプロ野球記録保持者なのである。その記録が今シーズン、あまり人に知られることなく、ひっそりと破られようとしている。
―― 岡田選手にホームランについての質問があります。
「ホームランについてですか。ちょっと僕には無縁だと思いますけど」
―― ホームランには夢があると思うんです。
「うーん、まあそうでしょうね」
―― 実は、岡田選手はプロ初打席(一軍)から、まだ一度もホームランを打っていません。これは現役選手で最長記録です。ご存知でしたか?
「全然知りませんでした。僕がホームラン出てない人の1位なんですか?(笑) ロッテの岡田といえば、やっぱり足と守備で、ホームラン打者ではありませんからね。へぇー、僕がホームラン出てない人の1位なんだ」
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