原監督の1年。巨人独走を実現した「3つの采配」 (3ページ目)

  • text by Sportiva
  • photo by Masuda Yuichi

 その決断は、シーズンの重要なポイントとなる夏場だった。8月11日の広島戦で5連勝を飾ると、貯金は今季最多の28まで積み上げられたが、そこからチームは停滞した。続く8月13日のDeNA戦から10試合は、3勝6敗1分けと大きく負け越した。

 そこで、8月24日のDeNA戦で、それまでの4番阿部、5番村田を解体。3番阿部、4番村田の新打線を組んだ。昨年から「慎之助のチーム」と呼んで、阿部には絶大な信頼を置いてきた原監督。そんなチームの大黒柱を4番から外したのだ。

「何の説明もなかったですね」と、新たに4番に入った村田は言うが、これが、チームの活性化につながった。そこから、いきなり5連勝。貯金を一気に30台に乗せて、ラストスパートに成功した。原監督は、新たなオーダーを組むことで、さらなる可能性を持ったチームの潜在能力を引き出したのだ。

“阿部のチーム”として進んできたチームだが、阿部が勝負どころで滞っていると判断して打った、衝撃的な一手だった。それは、現状を打破するために、ナインの奮起をうながした無言のメッセージでもあった。

 大胆かつ果敢な戦術も打った。攻撃面で象徴的だったのは6月25日、マツダスタジアムで行なわれた広島戦だ。1イニングで2度のダブルスチールを敢行した。

 2点を追う8回2死一、二塁。打席に立つのは、5番の小笠原道大だった。カウント1ボール1ストライクで、広島の左腕・河内貴哉が3球目を投じると、二塁走者・亀井善行と一塁走者・坂本がスタート。スタンドがざわめく中、2死からの重盗を成功させた。その後、小笠原が四球で歩いて満塁。代わったミコライオから、代打の矢野謙次が中前打を放ち、二塁走者の坂本も生還して同点とした。

 なおも一、二塁で村田の場面。今度は1ボールから、小笠原に代わった二塁走者の松本哲也と一塁走者の矢野が重盗を決めた。直後に村田は右翼線へ勝ち越しの2点タイムリー。重盗をきっちり生かして勝ち越した。1試合2度の重盗成功は、球団では1985年以来、28年ぶりという異例の作戦だった。

 原監督は「(重盗ふたつは)珍しい。いつもあることではないでしょうね。まあ、僕が言うのもね」と多くを語らなかったが、川相昌弘ヘッドコーチは、「モーションも大きかったので、監督の判断でね」と振り返った。2死からという状況を考えても、失敗すればベンチの責任を問われる策。中日相手に連敗し、唯一の3割打者だったロペスが左脇腹を痛めて離脱した直後の試合だったが、チームに勢いを与える見事なタクトだった。

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