ただいま最多勝。ヤクルト小川泰弘が勝てる3つの理由 (2ページ目)

  • 津金一郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • photo by Nikkan sports

 それを可能にさせるのは、小川が常に"冷静であること"を心掛けているからだ。きっかけは創価大3年時の夏に出会った『スラムダンク勝利学』(辻秀一著)。人気マンガ『スラムダンク』を題材に、スポーツ心理学でアスリートのメンタルを分析したこの本と出会ったことで、"冷静さ"の重要性を学び、日常生活でも実践し、養ってきた。

 また、"ライアン"の異名を取る小川は、左足を高く上げるダイナミックなフォームがクローズアップされることが多い。そのため、実際の投球を見たことのない人には「派手な奪三振ショー」を繰り広げるタイプと誤解されがちだが、実は奪三振数は多くない。新人王争いのライバルでもある巨人の菅野智之が13試合でリーグ最多の91個の三振を奪っているのに対し、小川は13試合でリーグ11位の56個である。

 小川のピッチングスタイルは、球速140キロ台中盤のストレートに、140キロ前後のツー・シーム、130キロ台前半のカットボールとシュート、スライダー、110キロ台のカーブといった多彩な球種を織り交ぜて、打者のタイミングをずらして打ち取っていくものだ。

 オリンピックやWBC、オールスターゲームなどの大舞台で一流投手の球を受けてきたプロ19年目のキャッチャー、相川亮二に小川の特徴について訊ねると、彼のピッチングを支えるものとして"間"という答えが返ってきた。

「足を高く上げることが注目されているけど、彼の場合は横を向いて高く振り上げた左足をゆったりと踏み出す。そこが彼の最大の長所。どんな球種でも同じように左足をゆったりと踏み出し、同じように腕を振る。だから、バッターはタイミングが合わない」のだという。ピッチングフォームのリズムが単調ではなく、一瞬 の"間"を作ることができるため、球種による急速差や変化が生き、バッターはタイミングが合わせづらいのだ。

 ゆったりと左足を踏み出すには、下半身や体幹の強靭さが生命線になるが、ヤクルトの菊地大祐コンディショニング・コーディネーターは、その点について次のように語る。

「小川は大学時代から走り込みができていたし、今もしっかり走り込んでいるので、体幹や下半身に強さがある。それでいて、股割ができるくらいに柔軟性が高い。うちでは林昌勇(イム・チャンヨン/2008年~2012年所属。通算128セーブ)がそうでしたけど、小川も柔軟性をピッチングに生かしていますね。加えて小川には、トレーニングを登板日に向けてのコンディション維持としてではなく、シーズン終盤に肉体がレベルアップしていることを目標に取り組んでもらっています。今は疲労も溜まる頃だし、蒸し暑くて練習は苦しいはずなのに、しっかりやってくれています」と目を細める。

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