【プロ野球】田中将大との宿命の対決で斎藤佑樹が感じたエースの仕事 (2ページ目)
この夜の田中は、序盤からストレートを芯で捉えられる。1回、稲葉篤紀に技ありのタイムリーを打たれて1点を失った。2回にも陽岱鋼、田中賢介にストレートを芯で捉えられてピンチを背負うも、ここは小谷野栄一をいい当たりのセカンドゴロに抑えて無失点で凌ぐ。さらに3回、糸井嘉男にまたもストレートをショートの右へ弾き返された。「投げ急いで、力が入ってしまった」と振り返る田中の苦しいピッチングが続いた。毎回のように得点圏にランナーを背負わされていたこともあって、丁寧に行こうという意識が、田中から勢いを奪っているかのように見えた。
そのリズムが変わったのが、4回だ。
抜けたフォークを金子誠に左中間へ運ばれ、鶴岡慎也がバントで送ったワンアウト3塁のピンチ。佐藤義則コーチがマウンドへ足を運ぶ。迎えた9番の陽に対し、初球、キャッチャーの嶋基宏が腰を浮かせて構えた。高めに浮いてもいい、とにかく高めに思い切って来いというこの嶋の大胆な要求が、田中の腕を振らせた。陽は嶋の思惑通り、高めに伸びてきた152キロのストレートを捉え切れず、セカンドへ打ち上げてしまった。このピンチを凌ぐと、5回からはフォークを積極的に使い、ピッチングのリズムを変えた。そして8回は、圧巻のストレートで糸井を空振り三振に斬って取る。最後は堂々のピッチングで8回を投げ切って、田中はマウンドを下りた。
一方、初回を無難に立ち上がった斎藤は2回、突如、コントロールを乱す。牧田明久のヒットの後、ルイス・テレーロ、嶋を続けて歩かせて満塁。ここで内村賢介をセカンドゴロに打ち取るものの、田中賢がボールを一瞬、こぼし、三塁ランナーを生還させてしまった。さらに3回、ルイス・ガルシアに右中間を割られ、ツーアウトから松井稼頭央をファーストゴロに打ち取るも、稲葉がこの打球を弾く。このエラーで1、3塁となって、テレーロが斎藤の左を抜くセンター前へのタイムリーヒットを放った。打球が、人工芝ではなく土の部分でバウンドしたことで思うより跳ねず、斎藤のグラブの下をかすめていった、悔しい一打。これで斎藤は2点目を失った。
この夜の斎藤は、ブルペンからよくなかったのだと、試合後、吉井理人ピッチングコーチが明かしてくれた。
「本人も体がふわふわしていると言ってたし、力を入れてる割には(力が)入んなかったんでしょうね。1回からモヤッとしてたんで、調子悪いんだろうなと思ってました。自分の思うところに投げられてないなら、力勝負に行ってもいいよと言ったんですけど......」
あれっ、と思ったのは、吉井コーチがマウンドへ走った直後、2回のツーアウト満塁、高須洋介を迎えた場面だった。
極端に軽く、立ち投げに近い形で投げ始めたのだ。斎藤は試合後、脱力することを意識したのかと問われ、「そうですね、コントロールに苦しんだ試合だったので、それさえなければ(自分にもチームにも)両方とも、もうちょっとリズムが生まれたかなと思って」と答えた。確かに、コントロールを意識していたのだろう。しかし、あの立ち投げに近い投げ方を見ていて、思い出したのは斎藤のキャッチボールだった。
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