【プロ野球】田中将大との宿命の対決で
斎藤佑樹が感じたエースの仕事
田中将大との直接対決に敗れ、今季初黒星を喫した斎藤佑樹 不思議な感覚だった。
このふたりが投げ合っているというのに、ゲームの中で、折り重なってくるような芳醇(ほうじゅん)な味わいが感じられないのだ。
夏の甲子園、その決勝戦で再試合を含む2試合の激闘を演じた、早実の斎藤佑樹と駒苫の田中将大。そして、今やともに開幕投手を任され、ふたりがプロに揃ってから2度目の投げ合いとなった、イーグルスの田中とファイターズの斎藤──。
ふたりは、4月13日の札幌ドームで先発した。結果は、2-1でイーグルスの勝ち。8回を投げた田中に今シーズンの初勝利がつき、7回にマウンドを下りた斎藤には今シーズン初の黒星がついた。スコアだけを見れば投手戦にも見えるが、初回、田中が28球を費やして1点を失い、斎藤は2回に27球、3回にはなんと41球も投じて1点ずつを失った。この乱調ぶりに、試合後の田中と斎藤は口を揃えた。
「正直、考えている余裕はありませんでした(田中)」
「それどころじゃなかった......自分のことでいっぱいでした(斎藤)」
そうなのだ。
この夜のふたりは、互いの置かれた状況から相手を見据えて自分の役割を演じるだけの余裕がなかったのである。
このふたりの投げ合いを喩えて言うならば、飲み頃にはまだ早い、若いヴィンテージのワインのような楽しみ方ができるのではないかと思っていた。開栓したばかりの硬いワインが、時の経過とともに徐々に開いていく。一口飲むごとに、後口の余韻が新たな味わいをもたらし、印象が変わっていくのだ。斎藤の1回表のピッチングがその裏の田中のピッチングに刺激をもたらし、1回裏の田中のピッチングが2回表の斎藤のピッチングのエネルギーとなる。そうして折り重なった味わいは、このふたりにしか醸し出せない、複雑な禁断の香りとなって、球場を包み込む。
去年の9月10日、晩夏の仙台で味わったのは、確かにそんな重層的な香りのするワインだった。しかし4月13日、頬を刺す風が冷たい札幌の夜は、そうはならなかった。まるで無粋な順番で出されたグラスワインのように、印象が散らばってしまっていた。
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