【プロ野球】「負けない投手」――野村祐輔の持つ『ダマし』のテクニック (2ページ目)
記者席はいちばん見やすい場所だと思われているようなのだが、神宮の場合、じつはそうでもない。低い場所からやや見上げるような角度なので、往々にして捕手と主審に球筋を隠されてしまうため、球道が見えない。
そんなハンデのある環境なのに、「あれっ?」と気づいて、「そうか!」と確信を持つところまで追っかけたその記者はすごい。その「目」と「執着心」に同業者として敬意を表するものである。
と、その記者もすごいが、とぼけていた野村もまたすごかった。
球種を問われて、「スライダーにカーブ、たまにスプリットやチェンジアップも......」などと、素直に手の内をバラしてしまううちは素人さんである。投げられもしないのに、「シュートにフォーク」。フォークを投げているのに、「タテ系はチェンジアップ......」。野球では、ウソもセンスのうちなのだ。
ドラフトの半年前、じつは同じような目に遭っていた。
東海大・菅野智之、東洋大・藤岡貴裕と並び称される「大学BIG3」。その先陣をきって、野村に「流しのブルペンキャッチャー」の取材をお願いした。
4月――あと数日で春のリーグ戦という頃だった。
立ち投げの初球。ストレートがミットにズドンと炸裂したときのショックはすごかった。スリムな体型、無理のないフォーム。スタンドから見ていた野村は、そこからパチンとくるようなボールを投げる投手。そんなイメージだったが、野村のストレートは重かった。
しかし、最初の1球でそのイメージを粉砕してくれた。
「チェンジアップいきます」
魔球が来る。正直、怖かった。初めての変化球は、ほんとうに難しい。彼の指先からボールが弾かれた瞬間、クラッときた。めまいがしたのかと思った。そういうチェンジアップだった。
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