【プロ野球】「負けない投手」――野村祐輔の持つ『ダマし』のテクニック
明治大時代は東京六大学史上7人目の30勝、300奪三振を達成した野村祐輔安倍昌彦の投魂受けて~第13回 野村祐輔(広島)
あれは、去年のドラフトの頃だったと思う。あるスポーツ紙に、明治大・野村祐輔に関するある記事が出ていた。その内容は、神宮の記者席から野村投手の投球をじっと見ていたアマチュア野球担当の記者が、妙なことに気がついたというものだ。
「へんな落ち方をするボールがある......」
神宮球場の記者席は、ネット裏最前列の客席のちょうど真下あたり。「縁の下」のような場所にある。したがって、記者席に座っている記者たちの目線の高さは、ちょうどミットを構える捕手と同じぐらい。
「落ちる系」はチェンジアップだけ。記者は野村からそう聞いていた。
しかし、チェンジアップにしては、落下が急激過ぎる。チェンジアップのスピードじゃないよなぁ......。
何試合もじっと観察して、「ダマされている......」と疑念を持った記者は、思い切って野村に訊いてみたそうだ。
「ひょっとして、フォーク、投げてない?」
一瞬ギョッとしたような顔になった野村は、意外とあっさりと、「よくわかりましたねぇ」と、あの虫も殺さないような笑顔で「白状」したのだという。
すごい話だと思った。
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著者プロフィール
安倍昌彦 (あべ・まさひこ)
1955年宮城県生まれ。早大学院から早稲田大へと進み、野球部に在籍。ポジションは捕手。また大学3年から母校・早大学院の監督を務めた。大学卒業後は会社務めの傍ら、野球観戦に没頭。その後、『野球小僧』(白夜書房)の人気企画「流しのブルペンキャッチャー」として、ドラフト候補たちの球を受け、体験談を綴っている。