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【MLB日本人選手列伝】松井稼頭央 日本人内野手として着実な足跡を残した「リトルマツイ」 (2ページ目)

  • 文/杉浦大介 text by Sugiura Daisuke

【再評価されるべきメジャーでの適応力】

ロッキーズでは二塁手として堅実な守備も見せ、ワールドシリーズにも出場 photo by Getty Imagesロッキーズでは二塁手として堅実な守備も見せ、ワールドシリーズにも出場 photo by Getty Images 松井稼のキャリアの推移を振り返ると、ふたつの真実が見えてくる。まずはやはり日本人内野手のメジャーへの適応は簡単ではないこと。それと同時に、時間をかけてアジャストメントを成し遂げる例も存在するということだ。

「ストライクゾーン、ボールの違い、天然芝と人工芝の違い、スタジアムの大きさの違いとか、日本人内野手の苦戦には多くの要素が考えられる。うまくいかなかった場合、その理由は選手によって違うんじゃないかな」

 2007〜08年にオリックスの監督を務め、その後にメッツの指揮を執ったテリー・コリンズは日本人内野手の適応の難しさを、そう説明していた。松井稼以外にも井口資仁、岩村明憲のようにまずまずの成績を収めた選手もいるが、その一方で西岡剛、川崎宗則、中島裕之、中村紀洋、田中賢介、筒香嘉智などは活躍できたとは言い難い。日米の野球を熟知するコリンズが指摘した以外にも、日本人内野手の難しさは、日程の厳しさ、生活環境の違い、所属チームとの相性などさまざまな要素が考えられる。

 獲得時に大金が費やされている場合が多いことから、適応のための時間が極めて限られているのも大きい。ニューヨークの地元テレビ局「NY1」でプロデューサーを務めた日系人で、自らも大学まで野球をプレーした経験があるザック・タワタリ氏はこう述べていた。

「日本人選手の場合はもともとの給料の高さ、期待の大きさ、"ルーキーではない"という認識から、即座の結果を求められる。それができないと"失敗"と見なされてしまうようにも思える。日本人に限らず、どんなすごいスーパースターでも、いきなり数字を残せる選手はほとんどいないということを、忘れるべきではない」

 それらすべてを考慮すると、メジャーで3チームを渡り歩き、7シーズンに及ぶキャリアを築いた松井稼は、日本人野手として珍しいケースと言っていい。もともと器用なタイプではなく、当初は苦しむも、時間を経るごとに適応した。

 アメリカでスーパースターになるのは容易ではなくとも、このようにいぶし銀のような働きができる日本人内野手は、ほかにもいるのだろう。遊撃手から二塁手に転向して生きる術を見出し、ワールドシリーズ進出に貢献するほどの実績を残した松井稼は、再評価されてしかるべきで、今後の日本人内野手にとっても、ひとつの指標となってもいいように思えてくる。

【Profile】まつい・かずお/1975年10月23日、大阪府出身。PL学園高(大阪)―1993年NPBドラフト3位(西武)。2003年12月にニューヨーク・メッツと契約。2010年11月に東北楽天と契約して日本球界に復帰。2018年いっぱいで現役引退後、埼玉西武の二軍、一軍監督を務めた。
●NPB所属歴(17年):西武(1995〜2003)―東北楽天(2011〜17)―埼玉西武(2018)
●NPB通算成績:1913試合出場/打率.291/2090安打/201本塁打/837打点/363盗塁/出塁率.344/長打率.450
●MLB所属歴(7年):ニューヨーク・メッツ(2004〜06途)―コロラド・ロッキーズ(2006途〜07)―ヒューストン・アストロズ(2008〜10) *すべてナショナル・リーグ
●MLB通算成績:レギュラーシーズン=630試合出場/打率.267/615安打/32本塁打/211打点/102盗塁/出塁率.321/長打率.380 プレーオフ(1年)=11試合出場/46打数/14安打/打率.304/1本塁打/8打点/出塁率.347/長打率.500

著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

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