大谷翔平がFAに 憶測が飛び交うなか「21世紀のベーブ・ルース」の決断は? (2ページ目)

  • 取材・文/奥田秀樹

凡人にはわからない大谷の胸中と今後のFA交渉日程

 今、選手生活の新たな節目を迎え、ひとつ言えるのは「大谷の考えは凡人にはわからない」ということに尽きると思う。
 
 2017年のオフ、日本ハムからメジャーリーグに移籍した時も、ニューヨーク・ヤンキース、ロサンゼルス・ドジャース、テキサス・レンジャーズなど有力球団の名前が挙がり、筆者も現場の記者のひとりとして球団の絞り込みに懸命だった。その時に早々と名前を消したのがエンゼルスだった。担当記者たちが「うちはスカウトを日本に送っていない、だから絶対にない」と口を揃えていたからだ。だが、大谷はエンゼルスを選んだ。2020年のどん底の時期を思い起こすと、エンゼルスはあの状態でも二刀流を続けさせてくれたし、大谷は賢明な選択をしたんだと、今なら言える。だが、2017年の時点では疑問符しか残らなかった。入団決定直後のウィンターミーティングで、マイク・ソーシア監督(当時)と同じテーブルで食事をする機会があったが、その時、彼も自分たちが選ばれたことに驚いていた。

 そして現在、報道は過熱し、本命はドジャースだとか、エンゼルスの再契約もありうるとか、ヤンキースは可能性が低いとか書きたい放題だが、本人が球団選びの条件を口にしたわけではなく、具体的な名前を挙げたわけでもない。すべては憶測だ。ただひとつ確かなのは、米国の多くの野球関係者が、球界の看板選手となった大谷に、ワールドシリーズの桧舞台に立ってほしいと願っていることだ。今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝のように、剛腕豪打の二刀流で盛り上げてほしい、と。
 
 今年、FOXテレビが中継したワールドシリーズ第1戦の視聴者数は918万人で、第1戦としてはこれまでで最も少なかった。娯楽が多様化するなか、"秋の祭典"の視聴者数は長期低落傾向にある。あのルースがヤンキースで7度ワールドシリーズに出て15本のホームランを打ち、4度世界一になり、野球を国民的娯楽に押し上げたように、大谷に「10月の顔」になってもらいたい。ヤンキースで5度世界一になったレジェンド、デレク・ジーターもそのひとりだ。「大谷は偉大な選手だ。彼に足りないのは最も大きなステージでのプレー経験だけ。WBCで彼の名声と評判は別次元になった。本人もポストシーズンでのプレーを切望していることだろう。どの球団に行こうと、彼がその機会を得られるよう私も望んでいる」と話している。

 さて今後だが、大谷はほかの資格保有者と同様、ワールドシリーズ終了の翌日からFAになっている。しかしながら最初の5日間は、交渉相手は在籍していた球団に限定され、大谷の場合はエンゼルスだ。ただ近年の例を振り返ると、この時期に残留が決まったことはほとんどない。5日経てばほかの29球団との交渉を始められる。とはいえ11月7日から9日はアリゾナ州スコッツデールでジェネラルマネジャー(GM)会議が開催されるため、関係者はその準備に忙しい。大谷争奪戦の火ぶたが切られるのは、その後からだと思う。そして、おそらく11月中には決定する。山本由伸(オリックス、投手)やブレイク・スネル(サンディエゴ・パドレス、投手)ら大谷に次ぐ有力FA選手は、大谷を獲得できなかった球団の莫大な資金が降りて来るのを待つからだ。大物から順々に決まり、使われなかった獲得資金は、次に行く。約200人の他のFA選手のためにも早く進めたいのである。

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